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HOME>100のお題その1

073:予感

一体全体、心って何でしょう

What on earth is the heart,I wonder.

【073:予感】


「俺の心は死んだのさ。とっくの昔にな」

「死んじゃいないさ。枯れてるだけだ」

「…それ同じじゃないか?」

「水をあげればまた咲くだろう」

マンションの一室。
ベッドの上に男が一人、半分身体を起こした状態で佇んでいる。
存在感は酷く希薄で。
白い肌と綺麗に整った茶髪がどこが浮世離れした雰囲気を醸し出している。
ベッドの傍の机の上には、飲み終わった薬の袋。
男の顔に表情はない。
ひどく虚ろな目をしていた。
まるで、何かに感情を喰われたかのように。
男は何も喋らない。
精巧に造られた人形のように佇んでいた。

がたんっ

突然、マンションのドアが外から開けられる。
だが男は何の興味も反応も示さない。

「ただいまーっ」

外から帰ってきたのは人懐っこい顔をした20代前半位の男。
ベッドの上に佇む男とは対照的な、表情豊かな男だった。

「お前の好きだった本とか、紅茶とか買ってきたぞー!」

「………」

やはりベッドの上の男は何も喋らない。
表情豊かな男は、それでも気にせず、買ってきたものを男の膝の上に広げていった。
そして、呟く。

「お前が心を閉ざしてもう2年か…」

椅子を引っ張り出してきて、ベッドの上の男の横へ座る。

「傷口は癒えてると思うんだがな…」

「…………」

「予感がするんだ。心を閉ざしたお前が少しづつ心を開いて話し始めるんじゃないか…少しづつ感情を表し始めるんじゃないかって予感が」

「…………………」

「何でもいいんだ、何か喋ってくれよ…」

ベッドの上の男はトラウマを負った。
好きだった女性…婚約者に殺されかけた。
何とか一命を取り留めたものの、感情を喰われたかのように心を閉ざしてしまった。
結果、彼は人間不信になった。
何も喋らなくなった。
それどころか、衣食住もままならない状態に陥ってしまったのだ。
血みどろになった彼を最初に発見したのは友人である表情豊かな男。
2年間、毎日欠かすことなくベッドの上の男の面倒を見ている。

「見てられないんだよ…お前のその姿…」

「そりゃ悪かったな」

「えっ」

ベッドの上の男は相変わらずの無表情のまま。
だけど、ほんの僅かに。
ほんの僅かに喋ったのだ。

「お前…今…」

ベッドの上の男は視線を隣の男の方へ向ける。

「あと紅茶は砂糖多めで頼む」

無表情のまま、ベッドの上の男は口を開く。
歪んだ冷たい声。
だけど、感情は確かにそこにあった。

医者からは匙を投げられていた。
もう二度と感情は戻らない、植物人間状態だと聞かされていた。

濁った瞳に、少しだけ、光が。


END.
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