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HOME>100のお題その1

005:着信音

溺れる者は藁をも掴むとはよく言ったものだ。
ごく普通のサラリーマン、もとい中年の俺はまさに藁を掴みたい溺れる者であった。
激痛と血液に塗れながら思考は空回りする。

「っげほっ!!」

刺さったナイフが強烈に痛い。
というかこのままでは死ぬ。
夏だというのに妙にコンクリートが冷たいのは俺の身体から血液が流れ出している所為なのかも知れない。
ハァハァと虫の息で地面を這いずり回る。
何故こうなったんだろうかと考えてみても、原因は特に思い浮かばない。
背後から突然刺されたんじゃ、原因も何もあったもんじゃない。
うっすらと花畑が見えた所で、ようやく助けを呼ぶという選択肢が現れた。
119だったか110だったか、番号はこの際どうでもいい。
誰かに俺の状態を知らせなければ。
刺された時の弾みで鞄は放り投げてしまった。
ほふく前進で鞄へと近づく度、背中が火を吹いた。
…吹いてるのは血液だけど。

「…っくしょ」

ファイトが出ない、一発も出ない。
動くたびに出るのは俺の体液のみ。
だからと言ってこのまま天に召される訳にはいかない。

「っは…!」

ようやく鞄を掴み取る。
長い間のようだが、実際は1分といった所か。
とにかく震える手で鞄を開けて中身をぶちまける。
青色の携帯電話という名の藁を掴み取った俺、は、
…一瞬意識が飛びかけた。
もうこの際誰でもいいとリダイヤルボタンを押す。
最後に電話を掛けたのは誰だったか。
青い携帯電話はみるみる血で赤く染まる。
ああ、助かったら買い換えないとな…と余計な思考がよぎる。
背後で着信音がした。
何処かで聞いた着信音。
無い体力を振り絞って後ろを振り返る。
嗚呼、俺、は。

「あーあ、ばれちゃった♪」

妻に、殺される。

END.
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