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078:夏の午後

夏に水難事故が多いのは忘れ去られた死者たちの怨念のせい…かもしれない。

【078:夏の午後】

春が終わり、夏が姿を見せ始めた頃。
7月下旬の須磨海岸で泳ぐ人々がいる。
そんな人々を見つめながら、私は砂浜で砂の城を築くのに熱中していた。

「泳がないのかよ…」

友人の横島太郎はそんな俺をげんなりした表情で見つめている。
彼は私の水着姿を期待していたに違いない。
生憎、私は水着など破廉恥な格好で泳ぐ気は毛頭ない。

「浦島君」

「俺は横島だ!」

「似たようなものだろう」

「俺を昔話の主人公にしないで下さい!」

そう、友人の名前は横島太郎。
一文字違えば彼はたちまち昔話の主人公へと変化する。
そんな横島君をからかいながらも、私は砂の城を築くのに集中していた。

「昔話の主人公…か。ところでうら…横島君、君は夏、水難事故が多発する理由を考えたことはないかな?」

「はぁ?」

横島は露骨に眉をしかめた。
内心、彼は『何言ってんだコイツ』とか思ってるに違いない。

「夏に水難事故が多発するのは夏だからでしょう?真冬に海で泳ぐ馬鹿はいないですって」

「なるほど、そういう思考もできるな」

「それしか考えられないっすよ。真夏に泳がないで砂の城を築く学者さんとは違うんですから」

「ふむ。君もどうかね。白衣姿で城でも…」

「築きません」

「脳味噌カチカチだな君は。もっと自由な発想で行動しようという気はないのかね」

「盛大にお断りします。はたから見れば奇人変人ですよ、それ」

「君は学者としては9流だな。下水っていうか汚水だよ汚水」

「ひっでぇ…」

横島はもう既に涙目である。
可哀想なのでからかうのはやめる事にしよう。

「それで、何なんです?夏、水難事故が多発する理由ってのは」

「横島君、お盆って何の行事かは流石に知ってるよな」

「はぁ…先祖の霊を迎え入れる行事ですよね」

「大体あってる。お盆は旧暦の7月15日が中心だが、現在では新暦の7月や月遅れの8月に行っている所も少なくない」

「へぇ…」

「盆には先祖の霊の他に、無縁仏をまつったりもするのだよ」

「無縁仏ですか?」

「ざっくり言うと横島君のように女性にモテない君で結婚できなくて子孫を残せなくてお盆に誰もまつってくれる人が居ない霊の事だよ」

「しまいにゃあ怒りますよ」

「無縁仏って言うのは異常な死に方をしてこの世に未練を残してる場合が多くてな。ちゃんと供養してやらないと人々にとり憑いて害を及ぼしたり悪病をはやらせたりもする。特にお盆の間は海で死んだ無縁仏が幽霊船や海坊主などの妖怪になって海をさまよっているんだ」

「ほ~…」

「昔から『お盆には海に出るものではない』と言い伝えられてきたんだがな…」

須磨海岸は多くの人が賑わっている。
ゴミを捨てる不届き者や夜遅くまで花火をする若者が社会問題にもなったりしている。
そんな海岸をぼんやりと見つめながら、私は黙々と砂の城を作り上げていく。

「よし、完成したぞ横島君」

「泳ぎましょうよ…」

「絶対に嫌だ」

「せめて水着は着てください」

「あんな破廉恥なもの着れるか。ほとんど下着だぞあれは」

「いい年した大人が白衣で夏の午後に海で砂の城築く方が破廉恥だと思うんですが。別の意味で」

「え~いうるさい!海には危険が多いんだぞ!!たとえばだな…」

「たとえば何です?」

「京都の丹後半島では、盆に船で沖に出ると、ガァタロっていう河童が舳先に食らいついて『ひしゃく貸せぇ』って言うんだぞ」

「で、ひしゃくを貸すとそのひしゃくで船に水を入れられてしまうから、貸す時は底を抜いたひしゃくを手渡せば無問題…と。知ってますよ」

「ななな…!!横島のくせに生意気だぞ!!」

「もしかして…泳げないんですか?」

「ふぎっ」

「あ、図星だった」


END.
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