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HOME>100のお題その1

083:昨日

昨日は何処に?
明日はどっちだ。

【083:昨日】

俺の名前は江藤優作(えとうゆうさく)。
なんて事のないごくごく普通の会社員だ。

変わらない日常。
家と会社を往復するだけの日々。
そんなある日、俺は上司に声を掛けられた。

「オマエ、昨日8時頃兵庫駅に居ただろ?」

「え?俺がですか?行ってませんよ」

「えーじゃあ人違いか。お前にそっくりだったんだけどなぁ」

「俺がインドア派だってこと知ってますよね」

「そりゃそうか」

俺は昨日仕事を終えて家でネットをやっていた。
兵庫駅になんて行ってないし、また行くような用事も一切無い。
上司が見間違えたんだろうと俺は思った。
思えばこれが異変の始まり。
だけど、俺の日常は少しずつ、少しずつ。
おかしな方向へとねじ曲がっていく。

「江藤さん、昨日三ノ宮駅に居ましたよね?」

「え、俺が?行ってないよ」

「嘘~、綺麗な女の人と歩いていたじゃないですかぁ。それで私が『彼女さんですか?』って聞いたら『最近できたんだ。可愛いだろ?』って笑ってましたよ」

「何言ってんだ。江藤は昨日三ノ宮駅じゃなくて大阪駅に居たぞ。俺に挨拶してったしあれは間違い無く江藤だった」

「それおかしいですよ。優作は昨日熊本に居ましたよ。『熊本ラーメン食いたい』とか言ってたじゃないですか」

「北海道に居てカニ食ってたって出張してる社員が言ってたぞ」

「何言ってんだ。東京でも見たって出張社員が言ってた」

「み、皆ちょっと待ってくれよ。俺は昨日何処にも行ってないぞ。家でネットを見てたのに三宮や大阪やましてや熊本や北海道や東京なんかに行くわけ無いだろ!?」

シーンと静まり返るオフィス。
そのうちの一人がそっと呟く。

「もしかして…ドッペルゲンガー?」

「ドッペルゲンガーって何すか?」

「自分にそっくりな人が至る所で目撃される事だよ」

「ドッペルゲンガーを見ると死期が近いってよく言うよな…」

「江藤さんもしかして…」

「おいやめろ。冗談でもやめろ」

俺は引きつった笑顔で否定した。
自分の死期が近いだって?
馬鹿野郎、そんなわけあるか。

「俺、もう帰るわ」

「ああ、そうしろ。お前、すごい顔色悪いぞ」

俺はタイムカードを切るとそのまま家へと向かう。
駅へと入って定期券を取り出そうとした瞬間。
俺は信じられないものを目にした。

「うそ…だろ…?」

見間違えるはずはない。
俺と同じ顔の人間が目の前に数十人立っていたのである。

「やあ、もう一人の俺」

「やめろ、気持ち悪い」

「そう言うなよ。お前に話があってきたんだ。少し付き合えよ」

「何だよ。オリジナルの俺を殺しに来たのか」

「違うね。これは国の命令なんだ」

「国の命令?どういう事だ…?」

「ここじゃなんだから、喫茶店にでも行って話そうか」

「ああ、そうだな」

適度に人が多く、BGMにジャズが流れる古風な喫茶店。
自分と瓜二つの顔の人間が数十人目の前に座っている。

「お前、思ったより落ち着いてるな。普通はもっと騒ぎ立てたりするもんだが」

「いや、正直驚いてるよ。自分と瓜二つの顔を目の前にして思考が停止しているだけだ。これは悪い夢じゃないだろうかって思ってるよ」

「何から話したらいいかちょっと迷うところだが、まずひとつ。これはドッペルゲンガーじゃない」

「ドッペルゲンガーじゃないだって?何処からどう見てもドッペルゲンガーじゃないか」

「オリジナルの俺よ、君はドッペルゲンガーの特徴を知らないね?ドッペルゲンガーの人物は周囲の人間と会話をしないし、本人に関係のある場所に出現するんだ」

「今現に話しもしてるし、出現場所は全国様々だ。本人に関係のある場所じゃない」

「それじゃあこの状態は何だって言うんだよ」

「だから、これは数十年前に施行された国の命令なんだ」

「国の命令だって?」

「そう、日本の人口が年々減り続けているのは知っているな?」

「少子化問題って奴か。俺にとってはどうでもいい話だね」

「黙って聞けよ。このままでは数年後に日本は滅亡する」

「すこぶるどうでもいい」

「黙って聞けっつってんだろスカンタン。政府はこう考えた。『優れた人間を大量生産すれば少子化はなくなる』」

「何だその理屈。政治家は馬鹿なの?死ぬの?」

「政治家は馬鹿なのは認める。で、優れた人間がお前だったわけで、本人…つまりオリジナルに内緒で遺伝子操作された人間を作り出しちゃった訳で」

「ちょっと待て。俺が優れた人間だって?馬鹿も休み休み言えよ To 政治家の皆さん」

「『優れた人間』って言うのは遺伝子的にだぞ。たとえどんなにイケメンでも虚弱な体質を持つ遺伝子だと後世に残せなくなるだろう?その点お前なら安心だ。ゴキブリ並みの生命力だ誇っていいぞ」

「さり気無く罵倒するのやめてくれませんか。ていうか失礼にもほどがあるよね」

「で、現在に至るわけだ」

「どうしよう、こんな時どういうツッコミをしたらいいか分からない」

「あはは」

「とりあえずアメリカなら訴訟沙汰だぞ」

「残念ながら今の日本では訴訟は無理だな。だってこれ法律で決まっちゃったんだもん」

「待て。そんな法律いつできたんだ」

「数十年前つったろ。秘密裏に進められた計画だから、日本人は殆どと言っていいほど知らない」

「なんてこったい」

「ちなみに、お前のような奴はあと数百人居る。徐々に人口は増えつつあるといっていい」

「つまり、あと数百人が俺と同じ驚愕な光景を目の当たりにしている訳か。馬鹿じゃねーの」

「さて、ここからが本題だ」

「本題っていうか大問題だよ」

「こんな悪法を作った政治家の皆さんを滅亡させようと思うので協力してくれないか?」

「だが断る。この歳で犯罪者になりたくない」

「安心しろ。君はあることを証言してくれるだけでいい」

「証言だって?」

「ああ、実はこのふざけた幻想…じゃなくてふざけた法律にはやはり抜け穴があってな。同じ顔をしているが故に、誰が誰か判別がつかないという弱点がある。ということは」

「どういう事だってばよ?」

「1人の人間が犯罪を犯してもスナック感覚でサクサクとアリバイが作れちゃいますぞ」

「おいやめろ。俺と同じ顔の人間が犯罪を犯すとこなんて見たくない。ていうか実行犯は嫌だ」

「大丈夫、実行犯はもう既に俺がやると決めている」

「誰だよ」

「とにかくオリジナル以外の誰かだ。君はただアリバイを証明してくれるだけでいい。ちなみに数百人のオリジナルさんもこの悪法には激怒していてね。快く協力してくれたよ」

「君はどうする?」

「俺は…」

ホットコーヒーのカップを持つ手が僅かに揺れた。


「江藤さん昨日三ノ宮駅に居ましたよね?」

「ああ、ちょっと買いたいものがあってね」

「優作のことだからエロDVDでも見てたんだろ?」

「やだちょっとやめてくださいよー」

「あはは」

『続いてのニュースです。昨日午後9時30分頃、政治家の田辺潤介氏が何者かに刺され死亡した事件で…』


END.
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