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HOME>100のお題その1

088:傍観者

傍観者(ぼうかんしゃ)
当事者にならず、ただ見ているだけの人。
場合によっては責任の意識がないだけ加害者よりたちが悪い。
見てみぬふりをしている人も含む。


【088:傍観者】


「おつかれ」

兵庫県警交通課の高木は、同僚の藤堂にあたたかい缶コーヒーを手渡す。

「トイレ行くだけなのにやけに時間かかるなと思ったらお前さぼってy」

「相変わらず藤堂は頭固いな」

高木はへらへら笑って元の持ち場につく。
藤堂に向かって一言。

「コンビニでトイレ借りたついでだよ固いこと言うなって」

「お前警察官の仕事を何だと思ってやがる…」

「真面目に仕事しすぎるとハゲるぞ?いいからちょっとコーヒーでも飲んで休憩してろ」

「ちっ」

藤堂は素直に缶コーヒーのプルタブを開けて飲み始める。
高木はそんな藤堂を柔和な笑顔で見守りながら呟く。

「平和だねぇ」

「平和なのはお前の頭だけだと思うんだがな」

「殺人事件も何もなく俺らはただ交通違反がないか見守るだけ。実に平和だ!!」

「当たり前だ。殺人事件なんて起きてたまるか」

「時に藤堂君、もし仮にここで殺人事件が起きたとしよう。そこにはどんな種類の人間がいると思う?」

「またフワフワした質問だな…」

「まず第一に加害者が居るよね。次は?」

「被害者だろ」

「Yes。他には?」

「他、か。傍観者とか」

「そう、加害者と被害者の他は傍観者と救助者に分かれる。実は場合によっては傍観者は責任の意識がないだけ加害者よりたちが悪い。藤堂、1つ賢くなれる話をしよう」

「嫌だと言ってもお前の場合延々と1人で喋り続けそうだよな」

「その通りだよ。1964年3月13日、アメリカのニューヨークで、キティー・ジェノヴィーズという女性が自分のマンションに入ろうとした時、突然暴漢に襲われた。彼女は助けを求めたが、何度も刺されて約45分後に死んだ。その間、38人もの市民が目撃していたが、誰一人として彼女に援助の手を差し伸べず、また警察にも通報しなかった」

「ヒデェ話だな」

「外国だけの話じゃない。日本でも、1986年の駅のホームでの醉客死亡事件、1989年の女子大生殺人事件など似たような事件が起こっているが、同じように周囲に援助できる多くの人がいたにもかかわらず、援助されなかったんだぞ」

「なんでだよ。冷淡だな」

「と、思うよな。多くの新聞やテレビは、私たちの社会は冷淡で、自分本位で、他人の苦境に対して無関心になっているので見ていた者たちは同情を示さなかったと論じたんだ。そのような説明は一見もっともらしいが、実は1964年のアメリカでの事件をきっかけにして、何故多くの人が居ながら誰も援助をしないのか、どうしたら援助がなされるのかという問題に、社会心理学者達が本格的に研究を始めたんだ」

「社会心理学だぁ!?」

「藤堂、そんな嫌そうな顔をするなよ。心理学も学問の1つだよ」

「けっ」

「…とまあ社会心理学の研究が進むにつれて、緊急事態で人が援助行動をすることを決定するまでに、いくつかの段階を踏んでいることが明らかになった。B・ラタネらは5つの段階で、それぞれ適切な判断・決定を行った場合に初めて援助行動が生じると考えた」

「5つの段階…?」

「1:緊急事態に注意する…つまり突発的な緊急事態へ自分の注意を向ける。人間は何かに夢中になってる場合、緊急事態が起こっていてもそれに気付かないことが多いからね」

「気が付かないことには援助も出来ないってことか?」

「そういうこと」

「じゃあ次は?」

「お、興味が出てきたかい?それじゃあ続き。2:緊急事態が発生したと判断する…その状況を正しく“異常な事件だ"と解釈する。俺達人間は、通常の出来事を大袈裟に解釈し騒ぎ立てた事によって、他人に批判されたという経験を一度はした筈だ。オオカミ少年になるのを避けるために、事態がはっきりして緊急事態が実際に発生してると確信するまで何もしないんだよ」

「ほー」

「3:援助を行うことが個人的責任であると考える…援助するのは自分自身の責任であると決定する。それまでは何も行わない」

「自分自身の責任…ねぇ」

「だいたいこのあたりの決断が一番重要だね。人の善悪が問われる部分と言ってもいい」

「あと2つは?」

「4:援助の方法、何をする必要があるかを知る…例えば警察に電話するなど、誰もが必要な援助はすることができるが、泳げない人は水に溺れている人を救助することが出来ないといった具合に特別な技術・技能が必要な事態もあるので、何をしなければいけないかを知り、それが出来るか判断する訳だ」

「ああ、そういう考え方もあるのか。それじゃあ最後は?他にはないように思えるんだが…」

「最後はね、5:援助を行うことを決定する…たとえさっきの話の1から4がすべて満たされていたとしても、被害者の血によって服が汚される心配などで援助の決定を躊躇させる場合があることもあるんだよ」

「そんなことで…?」

「結局人間は自分自身が一番大事だからね。まあ仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないね」

「それが人間…か」

「でも、援助をしてもらいやすくする方法はあるよ。自分が通り魔に刺されたと仮定する。警察や救急車を呼んでもらわないと自分は助からないかもしれない。そんな時どういう言葉で援助を求める?」

「誰か救急車と警察を呼んで下さい…だろ」

「『誰か』じゃダメだ。指定しないと」

「指定だぁ?」

「野次馬の中に一人はいるだろう?青いマフラーをしているとか、赤い携帯電話を持っている人とかなどの特徴的な人がさ。個人を特定して注目させてしまえばいい」

「その手があったか…」

「言い方は悪いが責任を押し付けてしまうんだよ。そうすりゃ圧倒的に助かる確率が上がるんだ」

「なあ高木」

「なんだい?」

「普段はちゃらんぽらんしてるが本当はお前かなり賢いんじゃn」

「藤堂、俺はそんなに賢い人間じゃないよ。嫁の死に目に駆けつけない冷徹漢。それが俺なんだよ」

「高木…」

「さて、それじゃもう少し頑張りますか!」

高木はいつもと変わらず柔和に微笑んでいる。
藤堂は「喰えないやつだ」、と呟いた。

END.
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