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HOME>100のお題その1

092:カタルシス

そうして彼と彼女はそのカタルシスと共にハッピーエンドに向かっていくのだろう。
こんにちは、こんばんわ。
お元気ですか。
その気持ちは届いていますか?
想いは正しく伝わらないかもしれないけど。
その気持ちは届いていますか?
欠片でもいい。
どうか、どうか。


【092:カタルシス】


感情の無くなってしまった彼はもう喋ることも笑うこともない。
死んだ魚のような瞳でただただ醜く腐敗してゆく世界を見てるだけ。
衣食住すらままならない。
それでも彼が生きて行けるのは、やはり恋人という存在のおかげなのだろう。
彼は今日も喋らない。
自分が今何処にいて何をしていて何をしていないのか、自分の存在すら分からない。
だけど、今日も生きている。
そこに確かに存在する。

「隆くん、今日はバレンタインだよ!!」

合鍵でアパートのドアを開けて入ってくるなり女性は澄んだ瞳で彼氏に話しかける。
返事は、ない。

「事故からもう2年経っちゃったね…」

2年前のバレンタイン。
隆と呼ばれたその男性は今とは違って活発な好青年だった。
バレンタインだからとデートの約束をしていたが、仕事が長引き時間に遅れ、彼女と口論になってしまった。

『仕事と私どっちが大事なの!?』

『ごめん!!すぐ約束の場所に車で向かうから!!』

『もう知らないわよ!!』

電話は彼女がすぐにプツリと切った。
青年は慌てて愛車に乗ると、急いでデートの待ち合わせ場所に向かう。
悲劇はその時。
路面が凍結して隆の車はスリップした。
運悪くトラックと正面衝突し、何とか一命を取り留めたが、事故のショックかはたまた精神的ショックかは分からないが、感情が無くなり喋ることをやめた。

「ごめんね…あの時あんな酷い事言って」

「………」

虚ろな目。
光の宿らないくすんだ瞳。
きっとこれからもずっとこんななのだろう。

「隆くん、チョコレート大好きだったよね。今年も作ってきたんだ」

去年も、一昨年も。
隆はチョコレートを口にしなかった。

「ねえ、一口でもいいから…食べてよぉっ…」

ポロポロと涙を流し続ける、恋人。
抑圧された悲しい感情。

「…ら」

かすれた声だけど確かに聞こえた。

「隆、くん…?」

震える声で、震える手で。
確かに彼は自分の意志で。
彼女が作った愛を一口。
食べて、呟く。

『お前の愛は俺に確かに届いているから』

抑圧された悲しい感情がスッと流れて落ちていく感覚。
きっとこれは最大級の。

カタルシス。


END.
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