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HOME>100のお題その2

010:迷子

僕は何処に
 君は何処に
   目的地は何処に
    この足で辿りつけるのか
     そもそも僕に足は付いていたか
       暗くて怖い
        僕は誰だ?
         君は誰だ?

君は君だよ
そうさそれが。

【010:迷子】

「迷子って知ってるか?」

相変わらず唐突に質問する奴だ。
白衣の女性は僕に難問をふっかけてくる。
当たり屋か。

「いや、迷子は迷子でしょ?ググって(調べて)下さいよ」

「ふむ、とまあ君は答えを探すのにも常に迷子だねぇ」

「哲学的過ぎて理解しかねます」

「だろうね」

白衣の彼女はホワイトボードの前に歩み寄り、青色のマーカーを手に取る。
彼女はどういう訳か、青いものを好む。

「迷子、とは端的に言うと自分の所在が分からなくなり、目的地に到達することが困難な状態を指す事だが…」

僕は彼女の講義を聞くのが好きだ。
恋愛感情とは違う、何か。

「百貨店や行楽地、その他雑踏においては本人の目的に関わりなく、引率者から本人の所在を確認できなくなった時点で迷子とみなされる事もある」

「で、その迷子がどうしたって言うんです?」

「君は結論を急ぎすぎるねぇ…」

「あなたの思考に追いつけないんですよ、僕」

白衣の彼女は微笑う。
優しい、笑い。

「…迷子になるのは子供と相場は決まっているが、人でも初めて訪れた場所などでは同様の状況に陥りやすくなり、迷子と呼ばれることがある。また知的障害や自閉症、認知症の成人にも起こりやすいが、こちらは徘徊(はいかい)と呼ばれることが多い」

流れるような動作でホワイトボードに文字を連ねていく。
御世辞にも綺麗とは言えない字だけど、彼女の字には何処かあたたかさがある。

「迷子の保護方法は知っているかな?」

「迷子センターがまず第一に思い浮かびますが」

「半分正解」

「何すか、それ…」

「他にも、迷子札や現在ではGPS端末…例えば携帯電話などを持たせるのが迷子には有効だが」

「はぁ…」

「それでは、人生でも迷子な私達はどうしたらいいんだろうな?」

「えっ」

「人間は人生の中で時に葛藤し、悩み、人生でも迷子に陥る時もある。だが『人生』という世界にはには迷子センターも迷子札もGPS端末もない。迷子になっている事すら気付かない場合もあるかもしれない。そういった時、私達は何処へ向かえばいいんだろうな?」

「そんなの…僕も訊きたいですよ」

「我が行く道に茨多し、されど生命の道はひとつ。この外に道なしこの道を行く。これは武者小路実篤の言葉だが、結局は闇雲に進むしかないんだよ、私達は」

「うーん…」

「ふふっ、私の話は難しすぎて理解出来ないか?」

「はい」

「何も見えない、何処に向かってるのかさえ分からない…皆同じなんだよ。独りじゃ辿り着けない。ならば他人に訊くしかない。でも暗闇の中、他人すら見つからない場合もある。だから、声を出して探すんだよ。声が出ないなら、鈴をつけてもいい。放浪癖のある猫が首に付ける鈴のように」

「哲学過ぎて理解が追いつきません」

「うん、私のこれは独り言だ。決して私も全てが分かるわけじゃない。私は神でも万能な人間でもない。正直、自分でも意味が分からない」

ホワイトボードが彼女の字で埋まってゆく。
白から、青に。
時々病的なぐらい彼女はこうして内向的思考を深める。
怖いと思う反面、何処か興味を引きつけられる。
魅力、と言うには何かが違う。

「すまないが、紅茶を淹れてくれるか?」

ひとしきりホワイトボードを真っ青に染め上げてから、ポツリと彼女は呟いた。

「…はいはい」

僕は微笑んだ。


END.
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