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HOME>100のお題その2

026:荷物


「はいご乗車お疲れ様でした。まもなく終点、神戸駅到着です。お忘れ物のないように手荷物はなるべく手に持つようにしてお降り下さい。まもなく神戸駅です」

乗客は誰一人気が付かなかった。
車掌はまれに見るドヤ顔を浮かべたが、その表情を見るものは誰一人いない。

さり気なさすぎて気付かない親父ギャグ、だった。

やがて、車掌は車内に忘れ物がないか点検して回った。
電車の忘れ物第一位は傘だが、生憎今日は天晴れと言いたくなるような晴天。
残念ながら傘の置き土産はない。
そのかわりと言ってはなんだが、電車の忘れ物第二位が座席にころりと転がっていた。

携帯電話。

【026:荷物】
「携帯電話、落とした…」

バリバリの現代っ子にとって携帯電話は切っても切れない関係にある。(電話なだけに)
じゃあなんで落とすんだと言われると色々アレなのだが、とにかく落としたものは仕方がないじゃないか。
一体何処で落としたんだ?
ああ、電車の中だ。
がっくりとうなだれると、来た道を引き返す。
向かうはさっき降りた駅。
そこへ行けば運が良かったら見つかるかもしれない。
俺は今しがた出張先の岐阜から神戸へと帰ってきた所である。
最後に携帯電話を見たのは岐阜の駅だったから、途中で落としたのだろう。

「まいったな…」

神戸駅で一応届けられていないかと聞いてみたが、何しろ岐阜から神戸の間なので調べるのが大変だ。
駅員は忙しそうに他県の駅と連絡を取っている。
こりゃしばらく見つかりそうにもないなと諦めていたら、1人の駅員が「ありましたよ、届いています」と言った。

「何処にあったんです?」

何処で見つかったか聞いてもどうってことはないが、一応は何処で落としたのか知りたいと思って訊いてみた。

「東京です」

「は?」

「東京」

意外な返答が返ってきた。
悪いが俺は東京なんて行っていない。
行っていたのは岐阜だ、ぎふー。
なのに何故自分の携帯電話が東京なんかで発見されにゃならんのだ?

「ひょっとしたら中のデータを悪用されているかもしれないので警戒した方がいいでしょうね」

駅員も同じ事を思ったらしく、非常に気の毒そうな顔で俺に忠告した。
なんてこったい。
駅員は携帯電話が戻ってくるのはおおよそ5時間はかかると説明した後、また忙しそうにバタバタと業務に戻ってしまった。
とりあえず携帯電話が戻ってきたら一旦利用停止しておこう。
最悪買い替えも検討しなきゃならんな…
そんな事をつらつらと思いながら待つこと5時間。
明日から2日間は休みだから夜遅くなってもどうって事はないが、またいらない作業が増えたなーと思案している内に携帯電話と再会を果たした。

「間違い無くあなたのですよね?」

「ええ、間違いなく俺のです」

初代Xperia SO-01B…
左上に少し空気の入った液晶保護シートと、2年以上使ってスカイブルーがどんより黒くなっているカバー、極めつけは某魔法少女モノのアニメの青と赤のキャラクターのストラップが俺の携帯電話だとアイデンティティを主張している。
ついでにホームボタンのキーを押してロック解除をしてみる。
うごめくおにぎり壁紙と見慣れたアイコンがズラッと並ぶ。
うん、間違い無く俺のだ。
駅員に礼を述べた後、俺はまた自分の家へと徒歩で向かう。
すでに外は暗くなっており、携帯電話ショップもとっくの昔に閉店している時間である。
利用停止の手続きは明日やるとするか。
自宅のドアを鍵で開けて窮屈な背広から脱皮する。
風呂に飛び込みカラスの行水で15分ほどで出てくると、再び首をひねった。

「しかしまた何で東京から出てきたんだ?」

ホームボタンを押してロックを解除する。
アドレス帳を見られたんじゃないかと危惧して電話帳を開いてみるが、見たところどこもおかしい様子はなかった。
続いて音楽ファイルをざっと閲覧、異常なし。
写真ファイルもおかしい様子はない。
最後に、動画ファイル。

「ん」

動画を撮る習慣はないのでファイルは1つもないはずだが。
見慣れないファイルが1つ。

「なんだこれ…」

何の気なしにその動画の再生ボタンをタップする。
無音。
暗い画面からわずか2秒ほどで白く瞬き…

「!?」

画面が反転、現れた映像は電車の座席に転がる生首の映像だった。
ドス黒い赤色の血液がじんわりこぼれ落ちていって、逆に生々しく見えた。
怖くなってすぐに映像を停止させ、思わず携帯電話を放り投げた。
いつの間にやら冷や汗までかいてやがる。

「…んだよ、これ」

イタズラにしては手が込みすぎてないか?
それも忘れ物の携帯電話に、わざわざ…
放り投げた携帯電話を拾い上げると、充電器に携帯電話を繋ぎ、ごろりとベッドに転がった。
とにかく、明日はこの携帯電話を一旦利用停止させよう…
出張から帰ってきた疲れもあってか俺はすぐに眠りの世界へと落ちていった。

†††

【今朝未明、神戸市のマンションで男の遺体が発見されました…遺体には首がなく、警察は殺人事件として捜査を開始…】

「上村警部、これどう思います?」

若手の刑事が上司の上村に問うた。

「奇怪な事件だな…」

言うなり、上村は首無し遺体から視線を外すと、その男の部屋を見つめた。
部屋を荒らされた形跡はない。
特に手がかりらしい手がかりはない。
充電器に繋がった携帯電話のデータを見てみたら、遺体の男の首が電車内に転がっている動画が残されていた。

「この動画が残された日付は一昨日の昼間だ。だが解剖の結果、死亡時刻は…」

「今朝、なんですよね…」

部下の若手刑事は遺体を見ながら顔をしかめた。
おびただしい量の血液がベッドを汚している。
遺体を見慣れている職業とはいえ、誰もが顔をしかめるような凄惨な状況だった。

「それに、血液の量がありえない」

ゆうに2人分の血液量、だがその血液はその遺体のもの1種類だけだと科捜研から資料が回ってきている。

「それに、最大の謎が」

「遺体の首が未だ発見されていないってところに尽きるんですよね…」

捜査にあたっているが、全国津々浦々、何処を探しても生首なんて奇妙な荷物なんて出てこない。
上村は頭を抱えた。

「私はそんな非科学的な現象認めないぞ…!」

「同感です」

†††

1か月後。

「はいご乗車お疲れ様でした。まもなく終点、神戸駅到着です。お忘れ物のないように手荷物はなるべく手に持つようにしてお降り下さい。まもなく神戸駅です」

乗客は誰一人気が付かなかった。
車掌はまれに見るドヤ顔を浮かべたが、その表情を見るものは誰一人いない。

さり気なさすぎて気付かない親父ギャグ、だった。

やがて、車掌は車内に忘れ物がないか点検して回った。
電車の忘れ物第一位は傘だが、生憎今日は天晴れと言いたくなるような晴天。
残念ながら傘の置き土産はない。
そのかわりと言ってはなんだが、奇怪な荷物がモスグリーン色の座席にころりと転がっていた。

駅員はしばらく思考停止に陥っていたが、あわてて他の駅員と警察へ電話した。


END.
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