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HOME>100のお題その2

030:無視


お前らさぁ 親から飲まされるガソリンの味を知ってるか?
変態教師の靴の味ならどうだ?
同級生から食わされる砂の味は?
飢えを凌ぐために自ら食べた新聞紙の味くらいは知ってるかな?
知るわけねーよな だってお前ら幸せそうだもん
だけどその程度の味はマイナス十三組の生徒は一般教養として知ってるぜ
あたし達は酷い目に遭ってきた


めだかボックス9巻 第72箱

【030:無視】

父はひどく酒癖が悪くて、いつもあたしと母は蹴ったり殴られたりしていた。
母はひどく教育熱心で、いつもあたしはテストの点が悪くて怒られた。
そんな出来の悪いあたしのテストの点数を逐一父に報告していたけれど、父はことごとく母の言葉は無視していた。
やがて母は何も言わなくなり、代わりにあたしにたいして無関心を貫いた。
父は他に女を作って1人で出ていった。
残された母はやがてあたしに虐待するようになった。

学校に行けば異常なまでに迫害されて、異常なまでに孤立した。
最初は軽くクラス中から無視されるというほんの些細なこと。
それからやがて持ち物や机に落書きや傷を付けられたり。
『死ね』『学校来るな』『帰れ』…
罵詈雑言を間接的に浴びせられた。
時には殴る蹴るの暴力を加えられたり、トイレで上からバケツで水をかけられたり、タバコの火を腕に押し付けられたりもした。

親から飲まされるガソリンの味を知ってるか?
変態教師の靴の味ならどうだ?
同級生から食わされる砂の味は?
飢えを凌ぐために自ら食べた新聞紙の味くらいは知ってるかな?
あたしは酷い目に遭ってきた。

そんなあたしはある朝、いつもの様に目を覚ますとあたしは1匹の毒虫になっていた。
フランツ・カフカの『変身』のように。
あの小説って結末はどうなるんだっけ?
ぼんやりとそんなことを考えながら、あたしは毒虫の姿のままでリビングへと這っていった。

その日の母はいつもと違っていた。
いつもなら朝一番から罵声か暴力を浴びせられるのに、あたしが毒虫の姿になったその日だけは違っていた。

気持ちの悪い毒虫の姿になったあたしに怯えているのだ。

「おはよう、かあさん…」

「あんたその姿何なの!?」

「知らないよ。知らない。朝起きたらこうなっていたんだもん」

母はあたしが近づくと短くヒッと声を上げて遠ざかった。

「ねぇかあさん、なんで逃げるの?」

「あなたが気持ち悪いからよ!!」

「気持ち悪い…?」

「そうよ!!なんなの、それ!!気持ちの悪い毛虫そのものじゃないの!!」

「そんな…ひどい…ねぇ、かあさん話を聞いて」

あたしは母に近付いて触れた。

「触らないでッ!!」

母は悲鳴のように叫ぶと、近くにあった花瓶を投げつけた。
花瓶は放物線を描いてあたしの頭に直撃し、『ゴツッ』という鈍い音がしてあたしは気を失った。

ああ、思い出した。
フランツ・カフカの『変身』の結末。
毒虫の姿になった男は父親の投げたリンゴが背にのめり込んで傷を負い、苦しめられ最終的には家族に見捨てられて死ぬのだ。
きっと、あたしも…

「酷いな、これは…全身打撲と擦過傷だらけじゃないか」

どこからか医師と看護師の声が聞こえる。

「ずっと母親に虐待されてきたのでしょうね」

視界が白い。
何処かで嗅いだツンとした消毒液の匂いがする。

「おや、目が覚めたようだよ」

ブレていた視界はやがてはっきりと固定されて。
あたしは毒虫ではなく人間の姿で病院のベッドの上に寝ていた。
目の前には柔和な笑顔の老医師と、恰幅の良い看護師が1人。
一体何があったの…?

「記憶が混乱するのも無理はないな。君はね、母親に虐待されていたんだよ」

それはずっと前から。
知ってる。
母はどうなったの?

「君の母さんは亡くなったよ」

一体どうして?

「毒虫の毒が回ったみたいなんだ。それが新種の虫の毒物みたいでね…抗体を打とうにもどんな虫に噛まれたのかさっぱり見当がつかないんだよ」

その虫ってもしかして毒虫の姿になったあたしじゃないんですか?

「君が毒虫になっていただって?そんな非現実的なことある訳ないじゃないか。きっと疲れていたんだよ」

じゃあどうしてあたしは病院にいるの?

「実は君のおうちの近所の人から通報があってね。何か大きな物音がしたし、常に君の手や足に打撲痕がある…もしかしたら虐待じゃないのかっていう通報がね」

恰幅の良い看護師が続けて言う。

「それであなたのおうちの近所の人は機転を利かせて大きな物音がしたから強盗じゃないかってこっそり警察に通報して警察官があなたのおうちに半ば強引に押し入ったのよ」

恰幅の良い看護師はあたしに体温計を差し出し、水と痛み止めを手渡しつつ続ける。

「そうしたらあなたのおかあさんは毒が回って死んでいるし、その横にあなたが頭から血を流して倒れているしでもう大騒ぎだったらしいわよ」

老医師はゆっくり頷きつつ、カルテに何か書き込んだ。
看護師は病室から出ていって、入れ替わりに若い警察官が1人。

「君は虐待されていたようだね」

「…あなたがそういうのならそうなんでしょうね」

「僕は何も言わない。これから君は養護施設に行く事になるだろう。だけど、もし良かったら僕の娘になってもいい」

「えっ…」

「僕の娘にならないか」

「…」

「無視しないでくれよ。僕は君のような娘が欲しいんだよ」

若い警察官は照れくさそうに頭を掻いた。

「ろ、ろりこん…?」

「違わい」

そして笑った。


END.
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