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HOME>100のお題その2

034:蝋燭




この蝋燭一本一本が全て人の寿命だ。
人間は生まれた時から運命が決まっている。
蝋燭の長さが人間の寿命だ。
蝋燭が燃え尽きたり、途中で火が消えた時に人は死ぬ。


【034:蝋燭】


Drift走り屋er 番外 春日シンジ 命の蝋燭編


「なぁ、何か面白い話は聞いたことないか?」

「面白い話?」

「何でもいいからさ。そうだ、お前んちってお寺だろ?何か幽霊が出たとかそういう話ってないか?」

「…お前怪奇現象とかは信じないくせにそういう話聞くのは好きだよな。面白い話…ねぇ。そうだな…命の蝋燭、という話を聞いたことはないか?」

日が暮れて辺りが闇に包まれた頃。
ある寺の参道に春日シンジという名の坊主と相良走二という名の男がいた。

「命の蝋燭?」

走二は物珍しそうに畳の敷いてある本堂を眺めている。
そんな走二にシンジは靴を脱いで本堂に上がるように合図する。
走二は言われた通りに靴を脱ぎ揃えると、ほぅ…と小さく声を漏らした。
広くてヒヤリとした空気。
本堂の中は完全な暗闇に包まれている。

「…落語では『死神』というタイトルで、割と有名な話だと思ったんだがな」

シンジはそう言うと、走二に向かって命の蝋燭のあらすじをざっとかいつまんで話し始める。


【命の蝋燭/死神】
何かにつけて金に縁が無く、子供に名前をつける費用すら事欠いている主人公がふと「俺についてるのは貧乏神じゃなくて死神だ」と言うと何と本物の死神が現れてしまう。
仰天する男に死神は
「お前に死神の姿が見えるようになる呪いをかけてやる。もし、死神が病人の枕元に座っていたらそいつは死んでしまう。反対に足元に座っていたら病人は助かるから、呪文を唱えて追い払え」
と言い、医者になるようアドバイスを与えて消えた。

ある良家の跡取り娘の病を治したことで、医者として有名になった男だが『悪銭身に付かず』ですぐ貧乏に逆戻り。
おまけに病人を見れば死神はいつも枕元に…とあっという間に以前と変わらぬ状況になってしまう。
困っているとさる大店からご隠居の治療を頼まれた。
行ってみると死神は枕元にいるが、三千両の現金に目がくらんだ男は死神が居眠りしている間に布団を半回転させ、死神が足元に来たところで呪文を唱えてたたき出してしまう。

大金をもらい、大喜びで家路を急ぐ男は途中で死神に捕まり大量のロウソクが揺らめく洞窟へと案内された。
訊くとみんな人間の寿命だという。
「じゃあ俺は?」と訊く男に、死神は今にも消えそうなろうそくを指差した。
死神曰く「お前は金に目がくらみ、自分の寿命をご隠居に売り渡したんだ」と。
ろうそくが消えればその人は死ぬ、パニックになった男は死神から渡されたロウソクを寿命に継ぎ足そうとするが…

シンジは暗い本堂の中で走二に訥々と話をする。
走二はじっとシンジの話を聞いていたが、やがて思い出したように

「聞いたことある!」

と返事した。

「だろう?他のパターンで兄の寿命の蝋燭を再燃させた弟の話もあるんだよ」

「日本昔ばなしだっけ?」

「そう、確か日本昔ばなしの場合は『寿命のロウソク』だったかな…」

シンジは言いながら懐からライターを取り出し、御本尊様の周りの蝋燭に1つ1つ火をつけてゆく。
闇に包まれて静かだった本堂の中は蝋燭の光で満たされ、仄かに暖かく、しかし独特の雰囲気と存在感で包まれた。
走二はその非日常的な光景に圧倒されて思わずその場に座り込んだ。

「…怖いか?」

蝋燭の灯に照らされて、住職姿のシンジはニィと微笑った。
走二に座布団を手渡し、シンジは自分の分の座布団を敷くと、走二の横に正座する。

「ううん、不思議な感じがする」

「そ、か」

寺の中は蝋燭が燃えるジジッという音だけが響く。
しばらく静寂が続いた。
沈黙をそっと破ったのはシンジ。

「蝋燭、てさ。実は人間の寿命を可視化したものとして例えられることが多いんだよ」

シンジは懐から煙草の箱を取り出し、煙草を一本取り出すとライターで火を点ける。
ゾッとするような無表情でシンジは煙草の煙を吐き出す。
シンジの息遣いはとても優しく静かだ。
シンジの話は続く。

「例えばさ、子供の頃誕生日にケーキにロウソクに火をつけたことがあるだろう?」

「そう言えば…」

「歳を取る度に1本づつ増やしていくだろう。あれは儀式なんだよ。歳を取る度、自分の寿命を太く・長くなるように強化しているんだ」

「そう考えると納得いくけど、あれ最後に自分でロウソク消すじゃん」

「儀式だっつたろ。自分の人生に納得いくようにだよ。他人にかき消されるような悲惨な人生を送らないように自分で納得して自分で消すんだよ」

「ほほー…」

「まあ、この話は2代前の住職に聞いた話だから本当かどうかは確証はないがね」

蝋燭の炎に照らされながらシンジは煙草をくゆらせる。
そんなシンジの様子を走二はじっと見つめている。
少し、寒い。
走二は右腕を擦る。
その様子を見てか、シンジは音もなくそっと立つとやがて何処からか温かいお茶と薄手の毛布を持ってきた。

「…大丈夫か?」

「大丈夫…」

走二の顔は幾分か青白い。
シンジは再び元の位置に座る。

「少し憑かれたようだな」

シンジは懐から清めの塩を出し、走二の周りに2か所塩の山を盛る。

「太古の昔、この寺の近くは稚児や僧侶の死体置き場や葬儀場だったり、墓地や棺を作る名家があったらしい。敏感な奴はすぐにあてられちまう…」

「なんでシンジは平気なの」

「俺に霊感はないと思い込んでるからな」

「は?」

「人間なんてそんなもんだぜ。あ、そうそう。これも2代前の住職に聞いた話なんだけど…」

シンジの怪奇譚はまだ続く。

「2代前の住職の2代前…つまり俺の4代前の住職の話なんだけど…」

シンジの手元の蝋燭の灯はなびくように揺れ、影は天井にまで躍り上がった。

「空前、という和尚がいてな。その和尚は弟子の小坊主を殺し、肉をはぎ、その脂肪から蝋燭を作った…という話なんだが…実はその殺された小坊主は生前、人を殺した殺人犯だったという…」

シンジがちらりと走二の様子をうかがった。
走二は毛布にくるまって完全に怯えていた。

「…冗談だよ」

シンジはそっと走二の頭を撫でた。
瞬間、何処からともなくそよそよと風が吹き、本堂の蝋燭が全て消えた。

「ヒッ…!」

走二は更に怯えている。
シンジはふぅ…と煙草の煙を吐き出し携帯灰皿に灰を落とすと、すっと立ち上がり電灯をつけた。

「夜に怖い話はするもんじゃないだろう?」

シンジはそっと笑った。

「…気休めかもしれないけど、ちょっと俺の読経聴いて帰れ。少しは寒気がマシになるだろうよ」

「…そうする」

毛布の隙間から走二の小さな声が漏れた。

END.
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