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走り屋群像劇場『走り屋3rd+』




【走り屋群像劇場『走り屋3rd+』】

走り屋群像劇場『走り屋3rd+』 ACT4:白髪

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緑以外何もなく、不安と疲れで、寂しくなった頃にその寺が見えてくるという。
そんな山奥の、ある寺には白髪の若坊主がいる。
彼の名は春日 シンジ。
彼もまた走り屋である。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

規則正しい音がする。
何かを引きずったような…例えば、竹ぼうきで何かを掃いているような、そんな音が聞こえる。

「おっす」

「あ、走一さん。健二さんもいらっしゃい」

走一と健二は弟の友達の家に遊びに来ていた。
夕闇に包まれながら、シンジはサッと片付けてホウキとちりとりを掃除道具入れに入れると、2人に『本堂へ上がります?』と尋ねた。
走一と健二は『喜んで』と答えると、勝手知ったる何とやら…堂々と靴を脱いで本堂に上がる。
本堂の奥…奥殿には、深夜見ると心臓が止まりそうなくらいに大きな大日如来様がいる。
大日如来の前には不動明王様が坐っている。
また、大日如来様の右には阿弥陀如来様、左に釈迦如来様、さらに十一面観音様。
それらが全て重要文化財というのだから驚きである。

「いつ見ても大迫力だよなー…」

健二は間近で大日如来像を見上げながら呟く。

「ああ…」

走一は何故か大日如来像から5m離れてそれ以上は近付こうとはしない。
はっきり言って怖いのだ。

「走一さん、もしかして怖いんですか?」

シンジはやんわりと走一に尋ねる。
走一はビクリと肩を震わせた。
ビンゴである。

「なんていうか、その…」

走一は口ごもる。
健二が近付いて来てグイグイと走一の服の袖を引っ張るが、頑として動く気配はない。
というかグイグイ引っ張る健二に蹴りを入れる勢いで大日如来像には近付きたくないのが走一の本音。
空気を察したのか、シンジは座布団を3畳(※補足:関東では『枚』、関西では『畳』で数えるのが普通)持ってくると、大日如来像から離れて走一の近くに座布団を設置する。

「今日は、ここで」

シンジは人懐こい顔でニッと笑う。
健二も何かを察したのか、渋々大日如来像から5m離れた場所に座り込む。

「…暗くなってきたので」

シンジは前置きすると、スッと音もなく移動して大日如来像に近づくと、懐からライターを取り出し、御本尊様の周りの蝋燭に1つ1つ火をつけてゆく。
闇に包まれて静かだった本堂の中は蝋燭の光で満たされ、仄かに暖かく、しかし独特の雰囲気と存在感で包まれた。

「…怖いですか?」

蝋燭の灯に照らされて、住職姿のシンジはニィと微笑った。
走一と健二は首を横に振る。
シンジは再び走一達の元へ戻ると、走一の横に正座する。
健二はそんなシンジの顔をまじまじと見つめながら言う。

「なあ、『一晩で白髪』って話、知ってるか?」

瞬間、怪奇現象嫌いの走一が健二の頭を叩いた。
ちったぁ空気読め。

「マリー・アントワネットだったかな」

シンジは気を悪くした様子はなく、訥々と健二の問いかけに答える。

「そう、それ」

【一晩で白髪】
マリー・アントワネットはヨーロッパの名門中の名門、ハプスブルク家出身の女性で、フランス国王ルイ16世の妃となった。
だが、アントワネットは常軌を逸するほどの浪費家で、その散財っぷりは国の財政を圧迫するほどだった。
庶民が貧困に苦しむなか贅沢を続けた結果なのか、フランス革命が起こり夫ルイ16世とともに捕らえられた彼女は断頭台の露と消えた。
しかしこの処刑の日、断頭台の取り囲む民衆から驚きの声が上がった。
ブロンドの美女として知られたアントワネットの髪の毛はまるで老婆のような白髪に変わっていたのだ。
これは、贅沢を極めた宮廷生活から一転、死刑判決を受けたアントワネットがあまりの恐怖によって
髪の毛が白くなってしまったのだ。
このように、人はあまりの恐怖に直面したときには、一瞬で髪の色が抜け落ち、真っ白になってしまうことがあるという。


「でさ、前々から訊いてみたかったんだけど何か恐怖体験をしたのかなって」

「その通りだよ。俺は、あまりの恐怖に直面して髪の色が白髪になってしまったんだよ…」

シンジは頷く。

「これは、俺が高校生の時の話だ。きっと、この話は走一さんの弟の走二も知ってる」

そう前置きしてからシンジは訥々と語り始める。


【走二のノック】
シンジと走二、そしてC男とD男の4人で登山を計画していて、初日は車で山小屋まで行き一泊してから登山する計画だった。
全員で行きたかったが、走二は用事があるため、バイクで遅れて山小屋に着くことになった。
シンジはD男の運転する車にC男と一緒に乗り、走二よりも一足先に山小屋へ向かって山道を登っていた。
最初のうちはC男D男の2人と話をして盛り上がっていたが、シンジはついウトウトして眠ってしまった…
気がつくともう山小屋だった。
どうやら寝てしまったらしい。
体を起こして辺りを見回すとC男とD男が真剣な面持ちで立っていた。

「どうした?」

二人の異常な雰囲気にシンジは問いかけた。

「シンジ、気をしっかり持ってくれよ。実はなさっき警察から連絡があってバイクで途中まで来ていた走二が山道から落ちて死んだらしい」

「そんな……」

シンジは絶句した。
自分の一番大切な友人が事故で死んでしまうなんて…
ショックを受けたままシンジはひとりひざを抱えて塞ぎこんでいた。
そして夜、山小屋のドアが乱暴にノックされた。

「おい!シンジあけてくれ!」

走二の声だ!シンジは開けようとしたがC男とD男が引きとめた。

「だめだシンジ、走二は死んでいるんだぞ!きっと幽霊だろう。君を連れて行こうとしているんだ。絶対にドアを開けちゃいけない!」

二人は強い口調でシンジを諭した。
しかしドアをノックする音はさらに続いた。

「たのむ!シンジいるんだろ!?開けてくれお願いだ!」

走二の声が聞こえる。
走二を見たい、もう一度会いたい…
シンジは二人の制止を振り切ってそのドアを開けた。
彼の待っているドアを…

次の瞬間、景色が変わった。
白い天井が見える。
そして目を赤くはらした走二の顔が見えた。

「シンジ…よかった本当によかった……」

走二はそう言ってシンジを抱きしめた。
訳のわからないでいるシンジに走二は事情を語り始めた。
それによると事故に遭ったのはシンジとC男・D男の車の方で崖から転落し、シンジは一晩病院のベッドで生死の境をさまよっていたという。

「C男とD男は死んだよ。即死だったってさ」

走二はぽつりと言った。
シンジが先ほど見たことを話すと一言、

「あいつらもさびしかったんだろうなあ。お前を連れて行こうとしたのかもしれない」



「…それからだよ。俺の頭髪が白くなってしまったのは」

シンジはそう言うと、懐からタバコを取り出して火をつけた。
瞬間、蝋燭の火が消えた。
本堂の中は静寂と暗闇で包まれた。
シンジはスッと立って電灯をつけに行った。
やがて本堂の中は人工的な光で満たされた。

「走一…」

健二が走一の方を見たが視線の先に走一は居なかった。
走一は気を失って倒れていた。
どうやらシンジの話が冗談抜きで怖かったらしい。
確かにシンジの話は怖かったが、気絶する程でもないだろう。

「おい走一、走一ったら」

健二がゆすってみても走一は目覚める気配はない。
シンジは走一の傍に寄ると、呼吸を確かめた。
異常はないようだ。

「…少し、つかれたようだな」

シンジはそう言うと黙々と読経を始めた。
読経と共に、うーん…という走一の苦しそうな呻き声が響いた。

「…つかれたってまさか」

「さあ、どっちの意味だと思います?」

シンジは笑った。
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