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HOME>100のお題その2

037:探しもの




【037:探しもの】


『それ』は俺が生きていてこの肉体に縛られている限りは見つからないもので、普通の人間ならきっと見ることさえもままならないだろう。
俺は不思議な『それ』の話をしようと思う。
きっと意味が分からないだろう。
不気味だと思うかも知れない。
だけど、俺が俺を語る上で外せないのは『それ』の話なのだ。
俺はずっと『それ』を探している。
これまでも、きっとこれからも。

その駅のプラットホームを古ぼけたブーツで踏みしめると、自分が何処にやってきたのかを思い知らされる。
俺はまた、ここに帰ってきてしまった。
故郷。
辺りは夕闇に包まれ、俺は夜道を歩いている。
ひとりきりだ。
薄い影。
ああ、まただ。
一人のはずなのに。
振り返らなくても俺には分かる。
『それ』がついてきている。

『君は、何故そこにいるんだい?』

そんなこと、分かりきっている。
俺がそうなった原因は君…『それ』だ。

『ここにしかいられなくなったからだろう。君こそ何故俺についてくるんだい』

不貞腐れたように心の中で吐き捨てる。
『それ』は少し寂しそうな顔をしてまた俺に言う。

『単に居心地がいいからさ。それに、君だけが気付いてくれるから』

冗談じゃない。
俺は足を速める。
だけど、そいつは付かず離れずに俺の後をついてくる。
跡を残さずに、俺の後を。
『それ』はまた俺に言葉を放り投げる。

『君は自由なはずだろう?』

自由。
自由とは何だったか。
思案に暮れながら返答する。

『身体的には自由だが、俺はどうやら縛られているのさ。この土地…という奴に』

『土地?』

『地縛霊みたいなもんだ。離れてもやがて引き戻されてしまう』

『ああ、それは言えてるかもね。実際、君の家系は兵庫から出たことはない。何世代も前から』

『言うな、それは個人情報だ』

『だから仮想空間…ネット上ではいつも名前を偽るんだろう?』

事実だった。
俺の家系は何世代も前から兵庫という土地を出たことはない。
淡路には俺と同じ名字の集落があるらしいのだが、神戸市内で俺と同じ名字で血の繋がりがないのはたったの1軒だけ。
だから俺の本名を掴まれるというのは個人情報を掴まれるに等しい。
何処かの漫画で言っていたが、名を知られることは、相手に魂の端を掴まれるようなもの。
生まれた日を知らせることは、来し方行く末の道筋を掴ませるようなものだ。
確かに、その通りだと思う。
その漫画ではこうも言っていた。

時折、人ならぬものに出会う人がいる。
そして、その存在を、その意思を、姿を、時には怖さを人に伝えようとする人がいる。
けれど、人ではない何かを信じる者は少ないからそっと、まるで暗号のように何かに忍ばせるの。
昔話だったり、言い習わしだったりのね。
この世に住まうは人だけにあらず。
語り継がれし言い伝え、ゆめゆめ侮ることなかれ。

と。
故郷…実家のドアを開けて風呂に入り、服を着替えた。
友人の遥華が人の家で爆睡していた。
書庫にある資料の山を夢中で漁っていたら、急に辺りがしんと静かになった。
またか。
午後11時を過ぎているとはいえ、あまりにも不自然な静寂だった。

寒い。
震えた。
黒い影が俺の体温を奪ってゆく。
とっさに書庫から離れ、怖くて布団に隠れた。
怖くて被った。
冬布団は体温の流出を防いだだけで、抜け出た熱は戻らなかった。

「どうしたの!?」

震えて布団を被っている内、心地よさそうに寝ていた友人の遥華を起こしてしまった。
しまった、と思いながらも俺はまだ震えていた。

例えば。
仮にだが。
俺は『それ』が見えるとして、誰が得をするのだろう。
少なくとも俺はこれを得だと思った事はない。
子供の頃は『それ』が誰にでも見えるものだと思っていた。
違った。
誰にも見えないのだ。
あれは誰?と俺は大人や友人たちに尋ねたけれど、みんな不思議そうな顔をした。
その内、俺は『それ』について言うのをやめた。
そう。
得だと思ったことはないんだ。
いつだってそうだ。
皆、俺を見て変な顔をする。
気味の悪い奴だと困惑の表情を浮かべるんだ。
だから現実世界ではこの事を言うのはやめた。
架空の、仮想の、ネット上でだけしか言わない。
そうだろう? 26歳の大人が言う事じゃない。

「なぁ」

友人の遥華が入れてくれた暖かいココアをチビチビ飲みながら、俺はその優しい友人に声を掛けた。

「落ち着いた?」

彼女は俺の巨躯に飛びつく。

「ああ、落ち着いた。ありがと」

微笑う。
少しのくすぐったさを感じながら、俺は話を続けた。

「まだ仮定の話だけどさ。予知夢ってあるじゃん?」

「うん」

「あれは高次元体の見る夢じゃないかなって時々思うんだよ」

「うー…ん?」

「難しい変な話だと思ったろ?聞き流してくれて構わないよ」

一抹の寂しさを感じながら、俺は訥々と呟き続ける。

「高次元体の見る夢は膨大で、情報量が半端なく多い。なので、一人の人間がその夢を見ると壊れてしまう。気が狂ってしまうんだ。だから、高次元体は自分達が見た夢を分割し、睡眠中の人間…様々な人へと放流した。やがて浮かび上がった夢は俺達人間が予知夢として見る事になり…」

友人は首をかしげていた。
そりゃ、そうだろう。

「…そんな感じの奇妙な居心地の悪い夢を見て怯えていたんだよ」

俺は途端に気恥ずかしくなって、適度に誤魔化した。
だって、言えないだろう。
26歳にもなってその存在を探しているだなんて。
すっかりぬるくなったココアを飲み干して、俺は洗面所へ行き歯を磨いた。

「起こしてしまってすまない」

実際には歯ブラシを咥えながらだからかなり間抜けな発音になっている。

「いつものことじゃw」

遥華は優しい子だ。
服を脱いでびっちょりと汗をかいた寝間着を洗濯機に放り、新しい寝間着に着替えると、布団にゴロリと横になった。
昨日は自室の書庫で資料にまみれて寝ていたので彼女にこっぴどく怒られた。

「おやすみ…」

「ん」

やがて俺は夢の世界へ放り込まれた。
俺は探している。
『それ』が存在した痕跡を。

END.
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