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走り屋群像劇場『走り屋3rd+』


走り屋群像劇場『走り屋3rd+』 ACT10:時差


唐突だがあなたはジャンヌ・ダルクを知っているだろうか?
と、訊くと大抵の人は『火あぶりの乙女』とか『魔女狩り』とかそういう陰鬱なイメージを抱くのではないかと思う。
大体合ってるので文句はないし、特にその記述はさほど重要ではない。
私が持っている知識を総動員するとジャンヌ・ダルクという大方の人物像と人生は以下のとおりだったと思う。

【ジャンヌ・ダルク 1412-1431】
英仏100年戦争の後半、救国の信託を受けたという16歳の少女、ジャンヌ・ダルク。
白馬にまたがりフランス軍の陣頭に立ちイギリス軍を撃破、オルレアンを奪還。
その翌年、1430年5月の戦闘中に捕虜となった。
翌年の1431年5月にルアンの牢獄から引き出されたジャンヌは、墓地で魔女狩り裁判にかけられた後、ルアンのヴィユ・マルシェ広場で群衆の見物する中、火刑にかけられた。
薪や炭を積んだ高い火刑台の上に縛り上げられた彼女の胸には『ジャンヌこと自称乙女 虚言者、毒婦、世人を惑わせた女、巫女、妄信者、神を汚せし女、傲慢の者、イエス・キリストを誤信せし者、悪魔の祈祷師、背教、異端の者、邪教の女』などと書かれた札がぶら下がっていたという。
火刑の後、灰の中から薔薇色の心臓が1つ出て来たがどうしても焼けず、火刑執行人は持て余して心臓をセーヌ川に投げ込んだという伝説がある。

そう、重要なのは火刑の後。
灰の中から薔薇色の心臓が焼けずにセーヌ川に云々のくだりである。
火刑執行人は何てことしてくれたんだと私なら小1時間問い詰める。
取り返しのつかないことになってしまっているからである。
なぜなら、私は…

§

ああ、考えるだけで胃液がこみ上げて酸っぱくなるのを感じる。

「困った」

だから私は素直に呟いた。

「本当に困った」

「困ったからってその事実を口に出しても解決はしないと思うんだが」

隣には白髪の若住職の春日シンジがカラカラと笑っている。

「知ってるけど言いたくもなるんですってば。大体、シンジさんは私の状況見て楽しんでいるんでしょう?」

「そりゃあな。他人事だしな」

カラカラと笑いながら本日7本目の煙草に火をつけて実に旨そうに吸い込む。
こいつ絶対長生きしないだろうなと私は思う。
だからと言って私みたいに長生きなのも困ると思うが。
うっ。
思い出したらまた気持ち悪くなってきた。

「お前さ、慶応3年生まれでずっと尼さんやってる割にはびっくりするほどモノを知らねーのな」

白髪の若住職、春日シンジはフゥーッと長く浅く息を吐いて煙を排出した。
くそっ、人の気も知らないでプカプカタバコふかしやがって。

そもそも何故こんなことになっているのか正直さっぱり意味がわからないと思う。
大丈夫、私も意味が分からない。
ありのまま今起こったことを話すぜ!
なんて気軽に言えないのも非常に腹立たしい。
私はそんな有名な話も知らなかったのかと自分に対しても憤慨したくなる。
春日シンジの言うとおりで私は144年生きているがびっくりするほどモノを知らない。
今しがた彼からその仮説を聞いてようやく事実が把握できたという次第である。

§

そもそもの発端はジャンヌ・ダルクの心臓からだ。
灰の中からジャンヌ・ダルクの薔薇色の心臓が1つ出て来たがどうしても焼けず、火刑執行人は持て余して心臓をセーヌ川に投げ込んだ。
これが発端である。
日本では室町時代、足利義教のころの出来事である。
投げ込まれたジャンヌ・ダルクの心臓はゆっくりと形を変えながら日本に流れ着き、明治21年…とある関西の漁村に辿り着いた。

「伝説と伝説が結びついた結果がこれとか凄すぎるよな!」

そんな私の苦悩も知らず、いけしゃあしゃあと春日シンジは笑う。
あくまでもシンジが立てた仮説なのだが、仮説だと切り捨てるには妙な生々しさとリアリティがあり、私は悪寒すら覚えた。

§

健速 南海(たけはや なみ)。
慶応3年生まれ、144歳。
私の本当の名前と年齢である。

だが便宜上、私は年齢と名前…いわゆる戸籍を偽ってシンジの寺に住んでいる。
そりゃそうだろう。
見た目年齢20代の女が実は144歳なんて不気味以外の何物でもない。
それだけならまだしも、私は人肉を喰らった(かもしれない)のだ。

投げ込まれたジャンヌ・ダルクの心臓はゆっくりと形を変えながら日本に流れ着き、明治21年…とある関西の漁村に辿り着いた。
ある日、浜で拾ったという人魚の肉が振舞われた。

人魚伝説…いわゆる八百比丘尼伝説である。

村人達は人魚の肉を食べれば永遠の命と若さが手に入ることは知っていたが、やはり不気味なためこっそり話し合い、食べた振りをして懐に入れ、帰り道に捨ててしまった。
だが一人だけ話を聞いていなかった者がおり、それが私の父だった。
父がこっそり隠して置いた人魚の肉を、私が盗み食いしてしまったのである。
私はそのまま、20代の美しさを保ったまま何百年も生きた。
だが、結婚しても必ず夫に先立たれてしまい、父も年老いて死んでしまった。
終いには村の人々に疎まれて尼となり、国中を周って貧しい人々を助けた。
辿り着いた先が春日シンジの寺だった。

「人魚の肉じゃなくて人肉…それも心臓だったなんて…!」

「いや、あくまでも仮説だからね?」

「そうとしか考えられないじゃない」

「ですよねー」

「知ってたら食べなかったのに…!」

「いや、どうだろうな…俺ならそれでも食」

「薄ら寒いこと言わないでよ!」

「はははは」

春日シンジはおおよそ住職とは言えないような振る舞いをする。
そもそも住職なのに頭髪が坊主ではない。
煙草は勿論、酒も好きだし、肉や魚も平気でがっつく。
人並みに欲があるし、言動も人懐っこく人間臭い。
そんなシンジの姿を私は赤ん坊の頃から知っている。
それどころがシンジの4代前の住職も赤ん坊の頃から知っている。
なのに私は歳を取らない。

「ま、悩んでもしょうがないんじゃねぇの?」

シンジは吸い終わった煙草を携帯灰皿に突っ込み、音もなく立ち上がると台所へと消えていった。
数分後、熱々の緑茶とモンブラン2つをそっと置いた。
そんな仕草・思考と嗜好がシンジの4代前の住職に生き写しで思わず笑みが溢れる。

「…んだよ。おやつの時間だろ」

「いや、似てるなあって思っただけ」

「何代前の住職と?」

「4代前」

「あっそ」

シンジは短く返事すると、フォークでモンブランをつついて頬張った。
子供のように。


END.
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