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走り屋群像劇場『走り屋3rd+』


【走り屋群像劇場『走り屋3rd+』】

走り屋群像劇場『走り屋3rd+』 ACT7:幽霊局員(後編)BGM:「BLUE(Da Ba Dee)」/Eiffel65


蓬莱峡に幽霊が出る。
都市伝説や怪談話に詳しい健二が話をした。
途端に、走一の霊感が強力な怪奇現象を引き寄せる。
偶然なんかじゃない。
良くも悪くも、いつも走一は強力な何かを惹きつける。
健二はかすれた声で呟く。

「幽霊局員…」

霊感のない健二にもはっきりとその姿は見えた。
夜の蓬莱峡はしんと静まり返っている。
浮かび上がる郵便車の赤。
炎に包まれた『誰か』。
走一と健二のサンタ服の赤。
赤と赤が共鳴したのだろうか。
不思議と怖いという感覚はなかった。
だが、何処か物悲しく儚い思いが溢れる。
沈黙が流れた。
走一は何かに取り憑かれたように健二の車へと引き返すと、さっきコンビニで買ってきていた水を持ってきた。
走一は常に飲み物か菓子を持ち歩く癖がある。

「熱かったろ?痛かったろ?」

開口一番、走一は郵便車の前に佇む『誰か』の目の前に水を置く。
健二は硬直したまま口をパクパクさせている。
呆気にとられているのだろう。
佇む『誰か』は何も言わない。
ただ、何かに納得したように力強く頷いた。
走一はそっと手を合わせて目を瞑る。
やがて走一は健二にジェスチャーでお前もやれ、と促す。
健二も続いて走一の真似をした。

「誰にも気付かれず、もどかしい思いをしながらずっとそこに居たんだな」

真っ直ぐブレない走一の言葉。
炎に包まれた『誰か』はゆらゆらと揺れた。
泣いているのだろうか。
『誰か』と走一の間でどんな意思疎通をしているのかは第三者には分からない。
分からないながらも、健二は何かを感じ取っていた。
『誰か』と走一の意思疎通は続く。

「失ったものは取り戻せないよ」

訥々と語る走一。

「そう、だけどあなたはまだここにいる。偶然にも俺はあなたに会ってしまった。焼失した手紙は元に戻せないけど、俺はあなたの未練を少なくする手伝いができるかもしれない」

走一はそう言うと、ポケットからいつも持ち歩いているメモ帳とボールペンを取り出した。
メモ帳を1枚静かに引きちぎると、『誰か』に手渡す。

「俺は郵便局員じゃない。だけど、走り屋だ。走り屋だって時には誰かに何かを届けるようなこともあるよ。今日の俺達は、1日だけの似非サンタクロースだ」

走一は、儚げな表情を浮かべると、優しく微笑む。
横で見ている健二も微笑う。
走一のこういうところは素直に尊敬するし、自分もこうありたいと思う。
瞬間、フッと赤色が消えた。
何事もなかったように、蓬莱峡にはまた暗闇が戻ってきた。
残されたのはお供えの水とメモ用紙とボールペンだった。
微弱な風に吹かれてボールペンがカラカラと転がり、メモ用紙もふわりと漂う。
走一は慌ててメモ用紙を先に拾う。

「なあ走一、俺は夢でも見ていたのか…?」

「彼の情熱を…郵便局員の情熱まで夢にしないでくれよ」

走一は続けてボールペンを拾う。
メモ用紙は2つに折りたたんで財布の中に入れた。
お供えの水はそのまま放置して、今度はしっかりした足取りで健二の車へと戻ってゆく。
健二の車のドアを開けてから言い放つ。

「なあ、おい走一」

「健二、ちょっと運転変われ」

「へ?」

走一はさっさと運転席に座ると、シートベルトを装着する。
健二は納得のいかない顔で助手席に座ると、同じくシートベルトをつける。

「久しぶりに限界突破の本気で走りたくなった。健二、5分だけ寄り道していいか?」

「それは構わないけど…一体何なんだ?」

「用事が終わって高木さんの家に行く前に教えてやるよ」

健二の車のオーディオにMDを突っ込む。
車内の空気がガラリと変わった。
健二は覚悟を決めた。

「何かよく分からんが…事故にだけは気をつけろよ」

「応!」

走一は力強く頷いた。

BGM:「The Kids Aren't Alright」/The Offspring
【和訳】
俺たちが子供の頃は未来はとても輝いていた
昔ながらの街並みだって生き生きしていたし
ストリートで遊んでいた子供達は 成功することができたし、殴られることもなかった

でも今じゃ街はひび割れ ボロボロに引き裂かれてしまった
子供達は大きくなると共に疲れ切ってしまった
どうしてこんな小さな街が たくさんの命をのみこんでしまうのだろう?

チャンスは捨てられ 自由など何もなく かつての姿を望んでいる
それでも辛い
見ているのが辛いんだ
はかない命、砕かれた夢よ

ジェイミーはチャンスを掴んでいたし、それをやり遂げた
でも彼女はそれをあきらめ、子供をもうけた
マークは今でも家にいるよ、仕事が無いからね
彼はただギターを弾いては大量のマリファナを吸うだけ

ジェイは自殺したよ
ブランドンはドラッグのやりすぎで死んだ
一体何が起こってるんだ?
残酷過ぎる夢、これが現実

チャンスは捨てられ 自由など何もなく かつての姿を望んでいる
それでも辛い
見ているのが辛いんだ
はかない命、砕かれた夢よ


ビリビリと空気が張り詰める。
体調は万全じゃない。
だけど全開走行の走一の運転はいつにも増してキレていた。
他人の車にも関わらず、その操作に熟知している。
絶対にぶつけないという自信の元で走一は車を走らせている。
蓬莱峡の終わり附近、最後のコーナーをノーブレーキで抜けたところで、健二はついに恐怖で失神した。
その日、蓬莱峡のタイムレコードはひっそりと書き換えられた。
だがそれは、誰も知らない、誰も計測していない非公式のタイムでもあった。
雪が降ってきた。

「…じ、健二」

走一は助手席で失神している健二を叩き起こした。
健二はうーん…と苦しげな呻き声を上げながら意識を取り戻す。
それほどまでに走一の運転は怖かったのだ。

「おい健二ったら」

「ごめんなさいもうしません…ヒィ!」

走一は苦笑いしながら呟いた。

「健二、あそこにミニスカ美人サンタがいる」

「えっどこどこ!?」

「…いねーよ馬鹿」

「夢か」

「とりあえずついたぞ」

走一はエンジンを止め、シートベルトを外して車を降りる。
健二はキョトンとしながら走一に続く。

「郵便…局?」

「Yeah」

そのありふれた小さな郵便局は西宮市の片田舎にある。
白い外観と、小さな郵便ポスト。
夜の郵便局は何処か寂しい印象を受けるのは気のせいだろうか。

「走一くん、ここで何を送ろうというのかね?」

健二は首をひねって走一に尋ねる。
走一はニッといたずらっ子のように笑うと、ポケットから小さな封筒と80円切手を取り出す。
いつも事務職をしている走一は常に筆記具一式と切手を何枚か持ち歩いている。
小さな封筒に80円切手を貼り付け、走一は先程財布にしまったメモ用紙に書かれた住所を書き写してゆく。

「幽霊局員の家族へ送るんだよ」

走一はそう言うと健二にメモ用紙を手渡した。
メモ用紙には走一の筆跡ではない何かが書かれていた。
手紙だった。
メモ用紙に書かれた手紙は4行だけだった。
住所と、日付と、幽霊局員の本当の名前と

『ありがとう、ごめん』

たったこれだけ。
健二はどういう表情をしていいか分からず、やはり首をひねる。
健二はメモ用紙を走一に返した。
走一はメモ用紙を大事に封筒に入れると、封をしてポストに突っ込んだ。

「さっぱり意味が分からん」

「だろうね。でも、これでいいんだ」

「はぁ?」

「幽霊局員は事故死してから、地縛霊としてずっとあそこに縛りつけられていたんだ。誰にも気付かれず、ずっと苦しんでいた」

「はあ…」

「健二、彼…幽霊局員はね、家族に手紙を出したかったんだ。最後の手紙。遺書といってもいい。だけど自分は地縛霊になってしまっているから自由がきかない。その場から動けないんだ。だから、俺に手紙を近くのポストに届けるように頼んだ」

焼失した手紙は元には戻せないけれど、新しく手紙を届けることはできる。
そのことを知ってて走一は幽霊局員にメモ用紙とボールペンを手渡したのだ。

「ま、俺個人的な用事さ。さて、次は高木さんの…」

走一の言葉が止まった。
空気の抜けたタイヤのように、ヘナヘナと力尽きた。
健二が慌てて走一を支える。

「おい走一!?」

「…すまん、ちょっと疲れた。あと運転よろしく」

ニヘラッと笑うと助手席へと戻っていった。
そりゃそうだろう。
ただでさえ気温が落ち込んで関節が痛んで調子が悪いのに、集中力全開で車を最速で運転させ続けたのだから。
健二はふぅ、とため息をつくと、運転席へ座ってシートベルトを締めるとエンジンを掛けた。
高木の家まであと少しだ。
車を走らせ、高木の家の近くの自販機で温かい紅茶を買うと、走一に手渡した。

「サンタクロースがそんな顔色悪かったら困るだろ。しゃんとしろ」

「…さんきゅ」

ちびちびと紅茶を飲みながら、幾分顔色の良くなった走一は、ぼんやりと雪の降る景色を見つめていた。
高木の家につくと、健二は車を停めてシートベルトを外して降りると、ケーキを1箱そっと抱える。
走一も続いて車を降りる。
2人のサンタクロースはドアを開けた。

「「こんばんわ、希望配達人です!」」

END.
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