FC2ブログ

HOME>走り屋群像劇場『走り屋3rd+』

走り屋群像劇場『走り屋3rd+』


【走り屋群像劇場『走り屋3rd+』】

走り屋群像劇場『走り屋3rd+』 ACT8:地獄(前編)


緑以外何もなく、不安と疲れで、寂しくなった頃にその寺が見えてくるという。
そんな山奥の、とある寺には春日シンジという白髪の若坊主がいる。
元日の夕方、シンジは幾分か疲労した顔でドカッと座った。
除夜の鐘の準備や後片付けに追われ、ここ2日くらいまともに寝ていない。

「お疲れ様」

そんなシンジの寺に、相良 走二(さがら そうじ)が手伝いに来ていた。
熱々の緑茶とプリンを手渡す。

「うあー…助かる…」

しゃがれた声。
ずっと読経していたので声がかれるのも当然だった。
走二は苦笑いしながらシンジの横に座る。

「年末の深夜から早朝までノンストップで読経してたもんなあ…」

「毎年恒例だし仕方ねぇよ」

シンジは言いながら大判サイズのプリンをスプーンで掬い、頬張る。
仄かな甘さが疲れを癒す。
緑茶とプリン。
普通そこは緑茶と羊羹だろうと突っ込みたくなるが突っ込んではいけない。
寺生まれのシンジだが、彼は何故か和菓子ではなく洋菓子を好む。
理由は『和菓子は食い飽きた』だからだそうだ。
寺生まれのシンジでもクリスマスはケーキくらい食う。
住職だって洋菓子食いたいのだ。
そんなシンジは大晦日から元旦にかけて読経するのが毎年恒例となっている。
日の出が終わり、夕方に差し掛かった頃で一息ついたが、寺ではまだ他の坊主たちが慌ただしく後片付けをしている。

「ちょっとは仮眠したら?」

走二は心配そうにシンジの顔をのぞき込んだ。
目の下にくっきりとクマができている。

「いや、まだだ。まだ終わらんよ」

シンジはよろよろした足取りで部屋から何冊かの本を持ってくる。

「この時期になるとな、いわくつきの品が出てくるからそれを全部お祓いしなきゃなんねぇの」

いわくつきの品。
年末の大掃除で出てくるものがある。
本だったり、木箱だったり、人形だったり、お守りだったり。
一見、何の変哲もない品だが、妙な呪いがかかっていたりする品物が出てくるのだ。
代表的なもので『髪が伸びる人形』とか。

「だから、寝てる暇なんかねぇの」

シンジはドサッと大量の本を床に置いた。
走二が少し顔をしかめた。
埃っぽい臭いだけでなく、何となく居心地の悪い視線のようなものを感じたからだ。
走二は少しだけ後ずさった。

「そういや走二は霊感あるんだっけ?」

「いや、ないと思うけど…何かそれ、怖い」

「言うな。俺だって嫌だよ」

シンジは苦笑いしながら日本酒と塩を供える。
正座すると、振り返って走二に言う。

「なあ、走二。この本知ってる?」

ひらひらとその本を走二に見せた。
走二は恐る恐る近寄り、本を手に取る。

「浮世絵?」

「いや、立派な絵本だよ」

生々しい赤い絵面が一面に広がっていた。
シンジは絵本だと言うが、絵本にしては少々対象年齢が上じゃないのだろうか。
それに、大人にも刺激が強い。

「これが、絵本…?」

走二はあまりの禍々しさに露骨に顔をしかめる。
シンジは微笑みながら説明する。

「これは32年前に発売した『地獄』っていう絵本でな。元々は延命寺に所蔵されていた『地獄極楽絵巻』に、文章をつけたものなんだよ」

「へぇ…でもこれ子供とか泣くんじゃないのか?」

「下手すると大人でも泣くよ。だから毎年何冊かこの絵本が持ち込まれる」

「なんかやだなそれ」

「ま、これぐらいならお祓いすれば問題ねぇよ。中には本物も混じってるし」

「本物って何だよ」

「だから、俺でも祓い切れないようないわくつきの品」

走二が黙った。
シンジも黙った。
目の前には本の山。
もしかすることもあるかも知れない。
沈黙を破ったのはシンジ。

「なあ、走二」

「あーあーあー聞こえなーい」

走二は完全に怖がっている。

「聞けって。もし俺に何か異常が現れた場合は太龍寺に駆け込めよ。あそこに俺の師匠がいるから」

「異常ってなんだよ」

「全裸で踊りだしたりとか」

何だその異常。
走二は突っ込みたい衝動に駆られたが、ふとある本が目についた。

「あ、マザーグース」

走二は手を伸ばして本を開く。

【マザーグース】
英語文化圏の多くの国で作者不詳の童歌が数多く歌われており、子守唄、物語唄、早口言葉、数え唄、なぞなぞ、言葉遊びをはじめ、古い事件、政治家や王室、有名人への皮肉などが盛り込まれている。
およそ1,000を超える童歌がある。
マザーグースと言ってもピンと来ない者が多いが、マザーグースの中の詩『ロンドン橋落ちた(ロンドン橋が落っこちる)』は童謡として全国的に有名。

【ロンドン橋落ちた】
London Bridge is broken down,
ロンドン橋落ちた
Broken down, broken down,
落ちた 落ちた
London Bridge is broken down,
ロンドン橋落ちた
My fair lady.
綺麗な お姫様


Build it up with wood and clay,
粘土と木で作ろうよ
Wood and clay, wood and clay,
作ろうよ 作ろうよ
Build it up with wood and clay,
粘土と木で作ろうよ
My fair lady.
綺麗な お姫様


走二は英語で歌い始める。
澄んだ声が響く。
寺に英語の歌が響き渡る光景は何処か違和感があった。

「走二はマザーグース好きなのか?」

「好きって言うほどじゃないけど。家に全集があるよ」

「それ好きって言わね?」

「そうなのかな…」

マザーグースの不思議な世界観が好きだった。
走二は懐かしさからパラパラと本をめくる。
瞬間、パサッ…という音と共に紙の切れ端が足元に滑り落ちた。
よく言えば古風で雅な、悪く言えば古臭い紙。
赤い幾何学模様の和紙には何か文字のようなものが書かれていた。

「なんだこれ…?」

走二は拾い上げて読み始めた。

続く

絵本地獄―千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵
白仁成昭 宮次男
風濤社
売り上げランキング: 1,636


スポンサーサイト

この記事のトラックバックURL

http://paradox07.blog68.fc2.com/tb.php/437-dc1757db

コメント

コメントする

管理者にだけ表示を許可する

  Template Designed by めもらんだむ RSS

special thanks: Sky Ruins, web*citronDW99 : aqua_3cpl Customized Version】