走り屋群像劇場『走り屋3rd+』
【走り屋群像劇場『走り屋3rd+』】
走り屋群像劇場『走り屋3rd+』 ACT11:懺悔
BGM:「E.T.」/Nightcore
https://youtu.be/RDNLhQwL0Uo春日シンジは本日8本目の煙草に火をつけ、相良走二は近くのコンビニで買った菓子をボリボリと貪っていた。
秋晴れの吞吐(どんど)ダムは休日でもバイク乗りたちの憩いの場として機能している。
この呑吐ダムの名前の由来は、ダム建設前に志染川、山田川上流に大小の滝があり、それらが川の水を呑んで吐くことから「呑吐の滝」と呼ばれていた。
その名を取って呑吐ダムと名付けられたという。
この呑吐ダム建設により水没するため、民家が70mほど移築され、保存されている。
その民家は箱木千年家(はこぎせんねんや)と呼ばれる。
ダム一帯の湖のことを衝原(つくはら)湖と呼ぶ。
そんな何処にでもありふれた、神戸市の風景の中で2人はのほほんとしていた。
春日シンジも相良走二もバイクではなく四輪自動車を好む。
当然、この呑吐ダムにも自家用車を広場に止め、ただダムの景色を眺めていた。
「ちょっといいですか」
そんな2人に声をかけたのは柔和な顔のおじさんだった。
シンジと走二の2人はキョトンとした顔でその壮年紳士の顔をしげしげと眺めた。
ここ、ダムでは知らないもの同士で雑談をすることがよくある。
何ら不思議のない光景が続く。
「どうしました?」
人懐こいすまし顔で、シンジは話を促す。
「ご存知ですか。このダムにまつわる怪談を……」
「怪談?」
話が一気にきな臭くなってきた。
シンジは走二と顔を見合わせ、それでも一応聞いておこうと軽くうなずいた。
「このダムは山道に面していて、入り口には地蔵があったのをご存知でしょう。これは、私が体験した話です」
そう前置きして、ダムの怪談を訥々と語っていくのだった……
【呑吐ダムの怪談】
これは私が体験した話です。
私の家から隣の市にあるダムに行ったのは当時16才。
友達と公園にいた時、偶然先輩達が来てこう誘ったのです。
「久しぶり。暇だしダムに行かないか?」
と。
今日暇だった私は同意し、友達は
「怖いしやめよう」
と私に言いました。
が、私は無理を言って友達とダムに行くことになりました。
先輩の車に乗り、先輩・先輩の友達・私・私の友達で向かいました。
私は行く途中どんな感じかわくわくしていましたが、私の友達は浮かない顔をしておりました。
ダムは結構山道に面していて、どんどん山に入って行き、ダムの入り口には不気味な地蔵がありました。
車で坂を登っていきダムの上にある橋に到着しました。
行く道中に先輩が体験した怪談話などを聞いたりして、本当に不気味で雰囲気の悪い場所でした。
橋に着いた時、車から降りて少し休憩がてら4人で煙草を吸ってたり雑談をしたりしておりました。
ここでは今までに何人もの人が自殺などをしている所で、先輩とその友達は灰皿に煙草を捨てておりましたが、手持無沙汰だった私だけは何故こんなことをしたのか、ダムに向かって煙草の吸い殻を捨ててしまいました。
そしてまた車に乗り、ダムの奥へ向かいました。
特に怪奇現象というものもなく、つまらなくなった私は
「なんもないやん!しょーもなー」
と感想を漏らしました。
先輩は不服そうにこう言います。
「ここでもホンマにやばいねん」
友達も
「もー怖いし帰ろーや」
と騒ぎ始めました。
先輩の友人も間が持たなくなったのか、
「もう飽きて来たし帰ろか」
と帰ることになり、車で山道を下っていきやっと山道を出ました。
その時でした。
私の携帯に電話着信があり、私は電話に出ました。
「もしもし」
と何度も呼びかけましたが、相手からの返事は無く、次第に気持ち悪くなった私は電話を切りました。
そうするとすぐにまた非通知で着信があり、疑い深い私は
「絶対に誰かがかけてるやろ」
と言い皆の携帯の発信履歴を見ましたが、誰の携帯を見てもかけていませんでした。
鳴り響く携帯電話。
意を決した私は通話ボタンを押しました。
先輩が携帯を貸してくれと言うので私は手渡しました。
すると何故か録音を始め、それからも数件電話がかかってきて全部録音を始めたのです。
奇妙なことといえばそのくらいで、その日は遅かったので私は帰って寝ました。
次の日、何となく手持無沙汰な時にその録音を聞きました。
ずっと水が流れているような音が聞こえ、2件目の途中で
「殺す」
と何度も連呼していました。
夜になり友達と集まった時に、皆に録音された音声を聞かせましたが、皆何とも言えない表情でした。
それから3日後のことでした。
私は仕事の帰り道、バイクでいつものように帰っている時、交通事故に遭い、生死をさ迷うほどの重症を負ったのです。
病院も
「生きていたとしても植物人間」
と判断するほどでしたが奇跡的に回復し今は仕事にも復帰して働いています。
あの音声は何だったのでしょうか
「気のせいだね」
実も蓋もない言い方で切って捨てたのは走二であった。
シンジは煙草の煙を実に旨そうに吸い込むと、フーッと吐き出し、解せぬ、という表情で吸い殻を携帯用吸い殻入れに入れた。
ゴミはゴミ箱に。
「節子、それ怪談ちゃう。自業自得や」
辛辣。
2人はプリ……辛辣だった。
「昔の話ですよ。こう見えて今は牧師をしています」
ヽ(・ω・)/ズコー
2人はあまりのギャップにずっこけた!
「……何故、今更その話をしたんです?」
「懺悔をしたかったのです」
「はぁ、左様で……」
「このダムは自殺者が多いと聞きます。このダムは……このダムには一体幾つの遺体があるのでしょうか」
シンジはクックと笑った。
走二は呟いた。
「怪談話で盛り上がっている所悪いけど、このダムは20年前、猛暑により干上がったという記録があるんだ」
「その猛暑の年、遺体は発見された。ただしそれは、古代人の遺体だったそうだ。そういうわけで、現在遺体はゼロだぜ、オジサマ」
2人はそう言うと、それぞれ自動車に乗り、去っていった。
残された壮年紳士は頭を抱えた。
「違うんだ……」
「本当に私は……」
人を殺してこのダムに沈めたんだ……!!
どうして誰も信じてくれないんだ……!!
壮年紳士の懺悔は誰にも届かなかった。
走り屋群像劇場『走り屋3rd+』 ACT11:懺悔
BGM:「E.T.」/Nightcore
https://youtu.be/RDNLhQwL0Uo春日シンジは本日8本目の煙草に火をつけ、相良走二は近くのコンビニで買った菓子をボリボリと貪っていた。
秋晴れの吞吐(どんど)ダムは休日でもバイク乗りたちの憩いの場として機能している。
この呑吐ダムの名前の由来は、ダム建設前に志染川、山田川上流に大小の滝があり、それらが川の水を呑んで吐くことから「呑吐の滝」と呼ばれていた。
その名を取って呑吐ダムと名付けられたという。
この呑吐ダム建設により水没するため、民家が70mほど移築され、保存されている。
その民家は箱木千年家(はこぎせんねんや)と呼ばれる。
ダム一帯の湖のことを衝原(つくはら)湖と呼ぶ。
そんな何処にでもありふれた、神戸市の風景の中で2人はのほほんとしていた。
春日シンジも相良走二もバイクではなく四輪自動車を好む。
当然、この呑吐ダムにも自家用車を広場に止め、ただダムの景色を眺めていた。
「ちょっといいですか」
そんな2人に声をかけたのは柔和な顔のおじさんだった。
シンジと走二の2人はキョトンとした顔でその壮年紳士の顔をしげしげと眺めた。
ここ、ダムでは知らないもの同士で雑談をすることがよくある。
何ら不思議のない光景が続く。
「どうしました?」
人懐こいすまし顔で、シンジは話を促す。
「ご存知ですか。このダムにまつわる怪談を……」
「怪談?」
話が一気にきな臭くなってきた。
シンジは走二と顔を見合わせ、それでも一応聞いておこうと軽くうなずいた。
「このダムは山道に面していて、入り口には地蔵があったのをご存知でしょう。これは、私が体験した話です」
そう前置きして、ダムの怪談を訥々と語っていくのだった……
【呑吐ダムの怪談】
これは私が体験した話です。
私の家から隣の市にあるダムに行ったのは当時16才。
友達と公園にいた時、偶然先輩達が来てこう誘ったのです。
「久しぶり。暇だしダムに行かないか?」
と。
今日暇だった私は同意し、友達は
「怖いしやめよう」
と私に言いました。
が、私は無理を言って友達とダムに行くことになりました。
先輩の車に乗り、先輩・先輩の友達・私・私の友達で向かいました。
私は行く途中どんな感じかわくわくしていましたが、私の友達は浮かない顔をしておりました。
ダムは結構山道に面していて、どんどん山に入って行き、ダムの入り口には不気味な地蔵がありました。
車で坂を登っていきダムの上にある橋に到着しました。
行く道中に先輩が体験した怪談話などを聞いたりして、本当に不気味で雰囲気の悪い場所でした。
橋に着いた時、車から降りて少し休憩がてら4人で煙草を吸ってたり雑談をしたりしておりました。
ここでは今までに何人もの人が自殺などをしている所で、先輩とその友達は灰皿に煙草を捨てておりましたが、手持無沙汰だった私だけは何故こんなことをしたのか、ダムに向かって煙草の吸い殻を捨ててしまいました。
そしてまた車に乗り、ダムの奥へ向かいました。
特に怪奇現象というものもなく、つまらなくなった私は
「なんもないやん!しょーもなー」
と感想を漏らしました。
先輩は不服そうにこう言います。
「ここでもホンマにやばいねん」
友達も
「もー怖いし帰ろーや」
と騒ぎ始めました。
先輩の友人も間が持たなくなったのか、
「もう飽きて来たし帰ろか」
と帰ることになり、車で山道を下っていきやっと山道を出ました。
その時でした。
私の携帯に電話着信があり、私は電話に出ました。
「もしもし」
と何度も呼びかけましたが、相手からの返事は無く、次第に気持ち悪くなった私は電話を切りました。
そうするとすぐにまた非通知で着信があり、疑い深い私は
「絶対に誰かがかけてるやろ」
と言い皆の携帯の発信履歴を見ましたが、誰の携帯を見てもかけていませんでした。
鳴り響く携帯電話。
意を決した私は通話ボタンを押しました。
先輩が携帯を貸してくれと言うので私は手渡しました。
すると何故か録音を始め、それからも数件電話がかかってきて全部録音を始めたのです。
奇妙なことといえばそのくらいで、その日は遅かったので私は帰って寝ました。
次の日、何となく手持無沙汰な時にその録音を聞きました。
ずっと水が流れているような音が聞こえ、2件目の途中で
「殺す」
と何度も連呼していました。
夜になり友達と集まった時に、皆に録音された音声を聞かせましたが、皆何とも言えない表情でした。
それから3日後のことでした。
私は仕事の帰り道、バイクでいつものように帰っている時、交通事故に遭い、生死をさ迷うほどの重症を負ったのです。
病院も
「生きていたとしても植物人間」
と判断するほどでしたが奇跡的に回復し今は仕事にも復帰して働いています。
あの音声は何だったのでしょうか
「気のせいだね」
実も蓋もない言い方で切って捨てたのは走二であった。
シンジは煙草の煙を実に旨そうに吸い込むと、フーッと吐き出し、解せぬ、という表情で吸い殻を携帯用吸い殻入れに入れた。
ゴミはゴミ箱に。
「節子、それ怪談ちゃう。自業自得や」
辛辣。
2人はプリ……辛辣だった。
「昔の話ですよ。こう見えて今は牧師をしています」
ヽ(・ω・)/ズコー
2人はあまりのギャップにずっこけた!
「……何故、今更その話をしたんです?」
「懺悔をしたかったのです」
「はぁ、左様で……」
「このダムは自殺者が多いと聞きます。このダムは……このダムには一体幾つの遺体があるのでしょうか」
シンジはクックと笑った。
走二は呟いた。
「怪談話で盛り上がっている所悪いけど、このダムは20年前、猛暑により干上がったという記録があるんだ」
「その猛暑の年、遺体は発見された。ただしそれは、古代人の遺体だったそうだ。そういうわけで、現在遺体はゼロだぜ、オジサマ」
2人はそう言うと、それぞれ自動車に乗り、去っていった。
残された壮年紳士は頭を抱えた。
「違うんだ……」
「本当に私は……」
人を殺してこのダムに沈めたんだ……!!
どうして誰も信じてくれないんだ……!!
壮年紳士の懺悔は誰にも届かなかった。
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