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HOME>100のお題その1

024:優しい悲劇

彼は誰にも自分の過去を語らなかった。

「これは、誰にも話していない…僕の過去だ」

彼はそう前置きして、訥々と自分の過去を婚約者に明かした。

優しい悲劇

彼には優しい父親がいた。
小さな酒屋を夫婦で営む、ごくごく普通の家庭だった。
彼は父親を尊敬していた。
優しくて、力持ちで、いつもニコニコと微笑んでいる。
そんな父親が大好きでたまらなかった。

「配達に行ってくる」

日曜日、父はそう言って店の軽トラックに乗る所だった。

「僕も行っていい? 配達手伝うよ!!」

「ははは、ありがとう。 じゃ、助手席にどうぞ」

「やったぁ!!」

彼は父親の配達について行く事になった。

「気をつけていってらっしゃい」

母親は笑顔で2人に手を振った。

「「行ってきます」」

2人は揃って手を振り返した。
軽トラックは動き出す。

「眠いか?」

父親は彼がうとうとしているのに気付いた。
暖かい日差しの中、昼寝には絶好の天気だった。

「眠いなら、寝ていいぞ。 目的地までまだ1時間以上あるし」

「う…ん…」

彼はそのまま眠ってしまった。
次に目覚めたのは、病院の中だった。

「疲労と寝不足が溜まっていたんでしょう。 居眠り運転ですね」

警察官が悲劇を母親に告げる。
母親は床へと崩れ落ちて泣いた。
訳が分からず、彼は呆然としていた。
ただ1つ分かった事は、父親が死んだ。
居眠り運転で事故を起こして。
あの時自分が起きていれば事故は起きなかったかもしれない。
彼は自分の行いを悔いた。
悔いて悔いて、自分を恥じた。
自分が全て悪いのだと責めた。

「××君…君は悪くないよ」

その時警察官の1人が彼に話した。

「これは、誰も知らない事実だ」

警察官は柔和な笑顔を浮かべて彼に話し続けた。
手渡された缶コーヒーは少し苦くて。

「君のお父さんが居眠り運転で事故を起こしたのは揺るぎない事実だ。 でもね、君のお父さんは君を庇うようにして死んでいた。 どういう事か、分かるかい?」

彼は黙って首を横に振った。

「君が大好きだからだよ。 君に生きて欲しかったから、とっさに庇ったんだ」

「そんなの…」

「お父さんが事故を起こしたのは、全て自分が悪いと責めるのは自由だ。 だけど、それじゃ君のお父さんは浮かばれないんだよ」

赤毛の警察官は厳しさと優しさを持っていた。
事実を告げる厳しさと、人の心を伝える優しさ。
彼はぼろぼろと涙をこぼした。
警察官は優しく頭を撫でた。

「強くなりなさい。 そしてお母さんを君が守ってあげなさい」

涙で滲んで、警察官の顔が見えなくなった。
やがて彼は大人になった。
彼女が出来て、やがて結婚する事になった。

ありがとう。
こんな僕を愛してくれて。
明日、結婚します。

END.
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