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044:冷たい匂い

Drift走り屋er 番外編

【044:冷たい匂い】

『明日からは暖かさが一変、寒波の影響により、雪が降る恐れがあります。お出かけの際は冬用のコートをお忘れなく!!』

テレビの中の天気予報士が、神妙な顔とは裏腹に明るい声で明日の天気を述べる。
走一は不機嫌な表情丸出しで、テレビの電源を切った。

「なあ、走一。明日」

金髪なのに眼鏡のチャラ男、流 健二(ながれ けんじ)は家に遊びに来ていた友人に呼び掛ける。

「却下。お断りします。答えは全ていいえです。…これだけ言えばどれか当たるだろ」

走一、と呼ばれた青年は冷ややかな視線で健二を貫く。
健二はしょんぼりした様子で溜め息をついた。

「あのな、走一」

「どうせ健二の事だから、『明日雪降るらしいから走りに行こうぜ』とかなんとか言って俺をまた巻き込むつもりだろ?」

「………ち、違うぞ走一!!」

「じゃあなんなんだ」

「ゆ、ゆゆゆ雪だるま作りに行こうぜ!!明日雪降るらしいから!!」

「ダウト、健二は嘘つくと目が泳ぐ」

「ほあああああああああ!!」

健二は両手で顔を覆い隠してリビングの床をゴロゴロと転がった。
そんな健二を見下ろしながら、走一はふぅと溜息をつく。

「健二、俺が雨の日と雪の日を嫌う理由知ってるだろ?」

走一は過去に大きな交通事故を起こしている。
肋骨を折る程の負傷と共に、友人一人を亡くしている。
精神的ダメージは勿論の事、雨の日や雪の日になると気圧の関係により、関節が痛むのだ。

「でもそんなの関係ねぇ!!」

一昔前のお笑い芸人の持ちギャグ決め台詞をぶっ放すと、健二はムクリと起き上がる。

「走一、お前が嫌でも俺はお前を連れて行くさ!!」

「そういう言葉は高校球児が彼女を甲子園に誘う時に言う男前御用達のセリフだ」

「相変わらず走一の日本語は意味分かんねー!!」

「健二の頭がワールドワイド過ぎてついて行けないって事だ。丁重にお断りするよ」

「ヤダヤダヤダ!!俺は走一と一緒じゃないと…もががが」

「人様に聞かれたら勘違いされかねない言葉を乱射するな馬鹿!この前高木さんに聞かれて若干気まずくなっただろーが!!」

「もがもがもっっっがg!!」

健二はバタバタともがきながら、ポケットから紙切れを取り出すと走一に突きつける。
走一は眉にシワを寄せて塞いでいた健二の口を開放し、紙切れを覗き込む。

「何」

「有馬温泉の宿泊ペアチケット。有効期限が明日までだからどうしても走一と行きたいと思って」

「だから、そういう男前なセリフは涼子ちゃんみたいな女性に言えとあれほど…」

「涼子ちゃん、友達と同窓会で2~3日帰ってこないし、それなら走一誘って有効活用した方がいいかなと思って。走一、温泉好きだろ?」

「…健二」

「うん、だから一緒に行こ…うわっ!!」

走一は健二に思い切り抱きつくと、満面の笑顔で言い放つ。

「健二、ありがとう!!」

「お、おおぅ」

先程までの冷たい態度が一変した走一を見ながら健二は呟いた。

「走一って…ツンデレだよなぁ…」

「それは違うぞ。割合で言うとツンツンデレツン、ツンツンツンツン死ねツンだ」

「さり気なく死ねって言うな」

-翌日 神戸市某所-

「健二ぃー」

「おー走一、よく来た…な…?!」

健二は呆気にとられた表情で走一の姿を見つめる。
黒い冬コートに、帽子、マフラー、手袋という重装備で待ち合わせ場所にやって来たのだ。

「走一…お前着込み過ぎだ」

「寒波なめんなよ!!今日、冷たい匂いするから降るぞ!!」

「はあ?」

「雪の降る前ってな、独特の冷たい匂いがするんだよ」

「うわ…また走一の不思議ちゃん発言が出たよ…」

「不思議ちゃん発言て何だよ」

走一は心外だ、とでも言いたげな表情を浮かべた。

【有馬温泉 ウィキペディア(Wikipedia)より一部抜粋】
有馬温泉(ありまおんせん)は、兵庫県神戸市北区(旧国摂津国)にある温泉。
日本三古湯の一つであり、林羅山の日本三名泉、また枕草子の三名泉にも数えられ、江戸時代の温泉番付では当時の最高位である西大関に格付けされた。
名実ともに日本を代表する名泉の一つである。
瀬戸内海国立公園の区域に隣接する。

健二は心なしか上機嫌な顔でハンドルを握っている。
助手席の走一はぼんやりと窓の外を見ていたが、やがて小さい声で呟く。

「あ…雪」

「本当だ。走一の天気予報はハズレがないなあ。でも大丈夫だぜ、こんな事もあろうかと冬タイヤ装備だしトランクにチェーン積んでるし」

「健二、準備は万全でも周りは混乱してるみたいだぞ」

「え?」

健二は走一の意味深な言葉を聞いて、車の速度を落とした。
突然の雪により、パニックを起こした車が速度を急激に落として走行。
よって、大渋滞が発生し始めたのである。
いや、渋滞と言うのは生ぬるいかもしれない。
何故なら、車はピクリとも動かないのだから。

「おいおい…これどうしろってんだよ」

「あー…薄々そんな予感がしたんだよなぁ…」

その間にも雪はどんどん降り積もり、前も後ろも車で塞がってゆく。
さながら

「地獄絵図…と言った所かな」

「うわ、出た。走一のSF発言」

「SF発言て何だよ…」

「すこしふしぎ」

「藤子・F・●二雄かよ!!」

走一はひとしきり健二にツッコむと、おもむろに車のドアを開けた。

「気は進まないが、ボーッとしていても仕方がない。ちょっと様子を見てくる」

「俺も行くよ」

「あほぅ、お前は運転手だろ。大人しくしてろ」

「でも走一、雪の日は関節が…」

「健二、後で炭酸せんべい3箱奢れ。それでチャラな」

「…分かった。気をつけて行けよ。雪で滑って転ぶなよ」

「雪国出身なめんなよ。行ってくる」

駆ける、駆ける。
急斜面を駆け上がる。
雪道に慣れない人間なら滑って転んでいる所だが、雪国出身の走一は雪や氷の扱いに慣れている。
…というか幼少時に慣らされたというべきか。

「何の為に親父は毎年冬になると俺をスケート場に連れて行くのかといつも疑問に思ってたけど…その謎が今日解けたよ」

10分ほど駆け足で坂道を上った頃。
渋滞の原因が走一の視界に飛び込む。

「うわ…マジかよ…」

夏タイヤのまま走っていた自動車の運転手が、雪を恐れて車両放置して立ち往生していたのだ。
走一は急いでポケットから携帯電話を取り出すと、警察官である高木に電話をかける。

『もしもし、高木ですが』

「有馬温泉に入る道の手前で車両放置4台による交通渋滞発生。ボスケテ高木さん」

『そうしたいのは山々なんだがな…雪により交通事故多発してそれどころじゃないんだ』

「高木さんの鬼!悪魔!!鬼畜眼鏡!!」

『ひどい言い草だなそりゃ。そこまで言われたら俺も言っちゃうヨー《自力で何とかしやがれ》』

「絶望したー!冷たい高木さんに絶望したー!!」

『一応署に報告・連絡・相談だけはしといてやる。元ヤンなら足りない脳味噌こねくり回して何とか出来ると信じているよ。それじゃあな、アディオス!!』

ツーッツーッツーッ…

「っくしょー…」

走一は携帯電話をポケットにしまおうとして…

「あ、そうだ」

健二に連絡する。

『走一か?』

「健二、4台立ち往生してるのが原因みたい。高木さんに電話してもフラれた。何かいい知恵ない?」

『走一、もしかして立ち往生してる道って有馬温泉の入り口の手前か奥か?』

「手前だけど?」

『唐櫃(からと)駅の手前か?』

「200mほど手前だよ」

『そうか。それじゃ、次の質問だ。運転手は全員揃っているか?』

「3人いるけど1人足りないみたい」

『じゃあ最後の質問だ。残りの1台の車、鍵は刺さっているか?』

「刺さってる。連絡先も書いてあるみたいだ」

『それなら何とか出来るかもしれない』

「さすが健二!!」

『いいか、今から言う事をよく聞け。立ち往生した車4台を何とかして前進させてみろ。温泉…いや、銭湯が一軒右手に見えてくる筈だ。俺の記憶が確かならその銭湯の名前は…』

「からとの湯」

『ご名答。その銭湯の警備員なり従業員なりに事情を説明して駐車場をほんの4台ほど貸してもらえ。あとは…分かるな?』

「さすが健二!略してサス健!!」

『何だよサス健て。とにかく、早くしろよ』

健二は笑う。
健二の土地勘、及び道路状況の記憶力により成せる技であった。

「オーライ、オーライ」

走一の声が響き渡る。
周りの運転手達にも手伝って貰いながら、走一は車を誘導していく。
残されたのは、運転手のいない1台の放置車両。

「さて、これが問題なんだよなぁ…」

走一は言葉とは裏腹に、顔は笑っていた。

「おい兄ちゃん、その車をどうするつもりだ?」

渋滞に巻き込まれたトラック運転手のおじさんが走一に話しかける。
おじさんは何だかんだ言いながら、走一の手伝いをしてくれた1人でもある。

「どうするもこうするも、動かすしかないでしょう《誰かが》」

「その車、夏タイヤだぞ?」

「あー…おっちゃん。言い忘れてたけど俺走り屋なんスよ」

「はあ?」

「『上り坂をサイドブレーキやフットブレーキを使わずアクセル調節だけで5分以上同じ場所に留まる運転が出来る程度の』走り屋…って言ったら分かるかな」

「なんじゃそりゃあ?」

「…おっちゃん、雪道はね。急にアクセルを踏まない限り、滑る事は滅多にないんですよ。つまり、アクセル調節が上手い奴ほど雪道にすぐ順応出来る」

【補足説明:雪の日の運転】
雪の日はハンドルを切っても曲がりにくく、止まりそうになるくらいスピードを落とさないとスリップする。
何故なら雪の上では乾燥した路面に比べ、タイヤのグリップ力が数分の1にまで減ってしまう為である。
ちょっとしたきっかけで車はすぐにコントロールを失うので、急発進・急ハンドル・急ブレーキといった操作は全てNGなのである。
走一はアクセルの調節に長けている。
上り坂の信号待ちでブレーキを一切使わずにアクセルの調節だけで停車するのはある種神業と言えるのである。


走一は放置車両の車のエンジンを掛ける。
シフトレバーをPからDにチェンジさせ、流れるような動作でサイドブレーキを下ろすと、ゆっくりとアクセルペダルを踏み込む。
ソロリソロリと車は前進する。
絶妙なアクセルワークで走一は駐車場まで車を運んで行ったのである。

「兄ちゃん若ぇのになかなかやるじゃねぇか!!」

「駄目だ、今日調子悪いや。乗れてねー」

「はあ?」

「ああ、こっちの話ですんで。じゃ、これで渋滞の原因は無くなった事ですし、お互い安全運転でいきましょうね。アディオス!!」

走一は笑顔で大きく手を振る。
トラックの運転手はそんな青年をぼんやり見つめながら、小さな声で呟いた。

「何よく分からんが…変な兄ちゃんだったなぁ…」

【用語説明:乗れてねー】
体調がイマイチ、タイヤがダサい、セッティングの効果が出てない…etc…
色々原因があるが、納得のいく運転ができてない。
「いつもと違って走りが冴えない」という意味。
走一の場合、『関節痛で調子が悪いので納得のいく運転が出来てなかった』と言ってるのである。

走一は徐々に流れていく車の動きを見つめていた。
やがて走一の前に健二の車が見えて…

「走一ぃ!」

「健二」

2人は再会した。

「あー…もうヤダ。早く温泉入りてー」

「もう少しだから大人しく助手席座ってろ。無理して関節痛くなったんだろ」

「「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ…かな」

「俵万智だったっけ?」

「そうそう、懐かしいよな」

「まぁた走一のSF発言が出た」

「だから、SF言うな」

冷たい匂いがゆるりゆるりと流れていく。
雪はまだまだやみそうになかった。

END.
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